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第73話 奇跡

スウィートブライド代表中道諒物語。ウェディングプランナーに憧れ百貨店を退職し起業。でも40歳で全てを失う大きな挫折。そこから懸命に這い上がりブライダルプロデュースの理想にたどり着くまでの成長ストーリー。※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

半年後 - 2014年4月1日 -

書写寺。

ジャーン、ジャーン。
山内に結婚式の開始を告げる銅羅の音が響く。

清らかなおりんの音色と趣深い祝祷唄の中、本堂舞台にて僧侶の行列が始まる。僧侶のあとに続いて黒紋付の新郎と白無垢の新婦が進んでいく。綿帽子の隙間から新婦の少し緊張している顔が見えると、僕も伝染したかのように緊張感があふれてくる。行列の一行が舞台から外陣に入ると、多くの参拝客から「おめでとう!」の声がかかった。僕の全身に鳥肌がたつ。

これまで僕が手掛けてきた数々のプロデュースが一瞬でかすんでしまうくらい、慈愛の念が心に伝わってくる素晴らしい入堂シーンである。

新郎新婦は加持された浄水で身を清め、式場である内陣へと入っていく。僕は2人のその背中を感慨深く見つめる。そして特別にご開帳された六臂如意輪観世音菩薩に見護られた書写寺の結婚式がいよいよ始まった。

僕が「このお寺で結婚式のプロデュースをしたい!」と思ったあの日から半年・・・。今日、僕はここに立っている。それは僕にとって奇跡であるように思えた。

ーーー さかのぼること半年前 - 2013年10月 -

ピアホテルでの深夜バイトが終わり、そのままスウィートブライドのサロンでゆっくりと珈琲を飲みながら、姫路結婚式ドットコムへの想いをノートに書き留めていた。

「書写寺でプロデュースしたい!」
僕はそんな淡い夢を抱きながら、僕が目指す播磨地域での和婚の在り方をもう一度考え直していた。「新郎新婦の幸せを願う」というコンセプトが自分の中で固まり、必然的に僕は、より宗教としての結婚式へと舵を切っていった。

先日視察した京都で感じたビジネスライクな結婚式ではなく、もっと宗教に根差した本質を追求できるような結婚式がしたい。それが僕が姫路結婚式ドットコムに求めたものであった。

そんな折、不思議な事が次々に起こりはじめたのだ。

僕がお世話になっている人たちから仕事のオファーや紹介の話が同時期に舞い込んできた。驚くほど一気に方々から話がきたのだ。そして、奇しくもそれらのほとんどが神社がらみの話であった。

僕は、点が線になっていくのを肌で感じた。全ての案件が姫路結婚式ドットコムへと流れていくような・・・。そしてもうひとつ、僕が和婚プロデュースを解禁して良いと、お天道様が後押ししてくれているようにも感じた。

僕は早速、簡単なチラシを作って紹介された神社をまわった。そこで、姫路結婚式ドットコムのホームページに掲載させていただく事の了承をいただきながら、神社としてのそれぞれの考え方をヒアリングしていった。

そしてその点から線への流れは、やがて書写寺へと導かれていく。

2013年10月26日土曜日。

今週の土日は、結婚式本番はない。今日は午後から新規の新郎新婦の接客予約がひと組入っていた。僕は朝少し早めの出社をして、姫路結婚式ドットコムのホームページ制作にとりかかっていた。

午後になり、新郎新婦が来店。
新郎はフランス人、新婦は日本人の国際結婚であった。型にはまらない生き方をしている2人で、僕はすぐに共感し、仲良くなった。行動的で、奇抜で、ぶっ飛んでて、でも本質はキチッとわかっている・・・、そんな新郎新婦だった。そして彼らとの楽しい会話は僕の思いもよらぬ方へと向かっていった。

「中道さん、書写寺いいですね。すごくいいです!」

実は、様々なご縁が重なり、この2日後の月曜日に書写寺へ商談で訪れる予定をしていたのだ。新郎新婦に書写寺の話をしたところ、たいそう前のめりになったのである。

「そんな風に喜んでもらえると嬉しいな。でも、書写寺へは明後日の月曜日に初めて営業に行くので、今の段階では、まだ結婚式ができるかどうかもわからないし、スウィートブライドがプロデュースさせていただけるかどうかもわからない。そんな状況だけど、それでもいいの?」

「和装で結婚式をしたいと思って探してたんですけど、正直、姫路のどこの神社もしっくりきてなかったんです。どこも私たちらしくないなぁ・・・、って。でも中道さんから書写寺の話を聞いた瞬間、そこだー!って思いました。だから、中道さんのその営業に期待して待ちます。あ、でも、もしダメでも私たちに気を遣わないでくださいね。書写寺がダメだったら、私たちらしい和婚探しのサポートをしてくれたらいいので(笑)」

僕は書写寺に強いご縁を感じた。

初めてアポを取ってお願いにあがるその2日前に、そこで結婚式を挙げたい!と言う新郎新婦(しかも国際結婚)が現れること自体、奇跡としか思えなかった。

ーーー 数日後。

書写寺の話は良い方向に進み、スウィートブライドとしてプロデュースをさせていただける事になった。

「書写寺、OKでたよ!」

僕の返事を待ちわびていた新郎新婦が大喜びでサロンにやって来た。フランス人の新郎は日本語が全くしゃべれなかったが、身振り手振りのオーバーアクションで僕にその喜びを伝えてくれる。僕たちは抱き合って喜びを分かち合った。

僕みたいな人間を快く受け入れてくれた書写寺には感謝の気持ちしかなかった。一生尽くしていきたいと思った。

2013年12月23日。

年末ギリギリになったが、ようやく姫路結婚式ドットコムのホームページを開設した。書写寺を筆頭に、多くの神社に賛同いただき、僕的には満足のいくホームページが誕生した。2012年7月にスウィートブライドを設立して、1年。僕が進むべきもうひとつの道が生まれたように思えた。

それにしても、悩み、苦しんだ2013年だった。しかし最後は奇跡のような感動に包まれた素晴らしい年の瀬になった。ただ、まだ何も始まっていない。でも、何かを始められるところに来た。それが今の僕には何より嬉しい事であったのだ。

2013年12月末。

僕は書写寺の本堂の大きな香炉の横に座り、祖母の形見の数珠を持ち、観音様に手を合わせた。

『今年は本当にありがとうございました。来年から、色んな新郎新婦を連れてきます。どうか、幸せにしてやって下さい』


第74話につづく・・・


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