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第66話 設立1周年

スウィートブライド代表中道諒物語。ウェディングプランナーに憧れ百貨店を退職し起業。でも40歳で全てを失う大きな挫折。そこから懸命に這い上がりブライダルプロデュースの理想にたどり着くまでの成長ストーリー。※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

2013年6月。

「中道さん!開店おめでとー!」

いつもの人懐っこい笑顔で安藤沙耶がサロンに入ってきた。安藤沙耶とは、プチウェディングの事務所でスウィートブライドで働きたいと言ってくれたあの日からお互いに忘れない程度の距離感で定期的に会っている。

「お店、めっちゃ可愛いですねぇ!」

「ありがとう。こんな可愛い店に40代のおっちゃんがひとりで座ってるの違和感あるやろ(笑)」

「だーかーらー!私が入るって言ってるのに」

「それはとってもありがたいんだけど、まだまだ沙耶ちゃんに給料払えるような余裕は無いよ。今は更にここの家賃や光熱費が発生するようになったから、ますます無理だなぁ・・・」

「そんな事言ってたら、いつまでも無理じゃん!」

「沙耶ちゃんが結婚して、子供産んで、その子が少し大きくなって、ちょっとパートしようかな・・・なんて頃がいい時かもね?」

本当にやる気があるかないかは別にして、僕にとって安藤沙耶という女性はありがたい存在である。こういう明るい人が本当に従業員でいてくれれば、僕も落ち込む事が少なくなりそうな・・・、そんな気がするのである。

2013年6月15日。

今日は、花鶴が運営するフランシュールでの初めての結婚式。社長の亜依さんも駆けつけてくれて、一緒に披露宴を楽しんだ。

人生には、ご縁があり、人の出会いがある。
そしてそれが今日のように形になり、ゆっくりとでも前に進んでいく。最初は何もなかった白紙のスウィートブライド。それが1年も経てば、こうして新しい会場でプロデュースをさせていただいているのである。改めて人のご縁に感謝するとともに、一歩一歩なんだなぁと実感するものだ。

2013年7月4日。

スウィートブライド1周年。
四季を通して1年やってみる事で、ようやくブライダル業界の匂いも嗅げるようになってきた。オードリーウェディングを離れてから少し現場のブランクがあったので、最初のこの1年は特に慎重にブライダル業界の流れを読むための1年にあてていた。

姫路の地域性、ブライダルの流行り、ブライダルの未来、人の動き・・・。なるべく俯瞰でそれらを見るように心がけていた。

昨年の立ち上げ当初から、スウィートブラドは「大人婚」をテーマにやってきた。本当に大切な人だけをお呼びするプライベートウェディングがこれから主流になる考え方だと確信していたからだ。

そういう考え方のもと、この1年は新郎新婦様のあらゆるニーズに対応できるような会場の態勢を整える事に力を注いだ。

今では、クラシックなフレンチレストラン、ガーデンのあるアットホームなフレンチレストラン、とびきりオシャレでモダンなフレンチレストラン、会費制ウェディングが似合うカジュアルなイタリアンレストラン、和の会席料理でもてなす料亭、さらに80名を収容するパーティー会場など、ラインナップとしてはお客様のかゆいところに手が届くくらい網羅できている。

しかし、ビジネス事は僕のその思惑通りにはならない。
まだ姫路でプライベートウェディングというスタイルは早いのだろうか・・・。この1年で思ったほどの手ごたえをつかめていない以上、このままこのコンセプトで進む事には無理があるように思えた。

ブライダル事業は、今日仕入れたものを今日店売りするというようなものではない。今日提案したものは1年後でないと結果がでない業種であり、そう考えると、前倒しで企画を立ち上げていかなければいけないのだ。

1周年を迎えた今日、僕はうかれてもいられなかった。早急に何か次の施策をうたなければ・・・。

ビジネスは待ったなしなのである。

2013年7月7日。

今日はフレンチレストラン「グランメゾン」でのレストランウェディング。僕の心の悩みなんて吹っ飛んでしまうくらい楽しくて想い出に残る一日になった。

机の上であれこれ悩んでいた事が嘘のよう。結婚式当日の魔力は僕にとっては偉大なのである。

今日の新婦様は18歳。とっても可愛くて僕をモチーフにした絵を描いてくれた。最高の想い出だ。(この時、新婦様が色鉛筆で描いてくれた可愛い絵は7年経った今もサロンに飾ってある)

ビジネス的に色々悩みながらも、こうしてひと組ひと組実績を重ねることで、自然とスウィートブライドの形も作られていく。そう思うと、僕の熱い想いでスタートしたスウィートブライドもまだまだ完成はしていない訳で、これからなんだろうと実感する。

僕は2年目の舵取りが何より大切なように感じた。

楽しい結婚式を終えたその夜。
少しハイな気分になっていた僕の心に次なる新しい企画が天から舞い降りようとしていた。


第67話につづく・・・





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