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第64話 サロン完成

スウィートブライド代表中道諒物語。ウェディングプランナーに憧れ百貨店を退職し起業。でも40歳で全てを失う大きな挫折。そこから懸命に這い上がりブライダルプロデュースの理想にたどり着くまでの成長ストーリー。※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

2013年5月26日(日曜日)

朝早くから姫路ベアリーフ教会にいる。
今月初旬にこの教会で結婚式をプロデュースして以来、日曜日の午前中は教会の礼拝に参加するようになった。僕は仏教徒だからクリスチャンになる訳ではないのだが、聖書やイエス様の勉強がしたくて牧師先生に頼み込んで参加させていただく事になったんだ。

もっともっと僕自身がキリスト教の事を知らないと、プランナーとしてダメだなぁと以前から感じていた。僕が扱っているのは「結婚式」であるという反面「宗教」でもある訳で、自分が扱っているものの勉強をする事は仕事上何より大切な事だと思っていた。だから今回の結婚式は僕にとってもいいタイミングであったように思う。

しかし、礼拝に参加して改めて思うが、聖書の解釈というものはとても難しい。なぜキリスト教が全世界でここまで広まっているのか・・・、僕はその理由が知りたいと思った。ただ礼拝に参加しているだけでは、なかなかその理由はわからないものだ。そのためには、やはりもっと聖書を学ぶ事が必要であろうと思った。

午前中の礼拝が終わりサロンに戻ると、中村建具店の中村さんからタイミングよく電話が入った。

「中道さん!今からでますね!」

いよいよ待ちに待った扉の完成だ。
サロンには数日前に水色のテントがつき、少しサロンの表情が変わったところ。今日、扉がつく事でさらにだいぶ雰囲気が変わるだろうなぁ。僕はワクワクする心をおさえられなかった。

13時。約束の時間通りに中村建具店と書かれた軽トラックがサロン前の歩道に横づけされた。車のドアが開き、人懐こい笑顔で中村さんが出てきた。

「中道さん、お待たせしました!」

「ありがとう!じゃ、今から古いの外すわ。」

僕はそう言って、古い扉を丁寧に外した。外した扉はサロン奥のスチールラックのところに保管する。原状復帰する時に必要になるので、ネジ類も無くさないように袋に入れ扉に貼り付けた。そんな作業が終わり表に出ると、仕上がったばかりの真新しい扉が運び込まれていた。

その新しい扉は、僕が想像していたよりも白くキレイに仕上がっている。もう少しアンティークっぽく汚れをだしてもらっても良かったのだが、中村さんの性格上、これでも汚れを出した方なのだろう。そんな風に感じた。

ただ、彼の満足そうで嬉しそうな笑顔を見ると、そんな細かい事はもうどうでもいいやと思ってしまった。

15分ほどで、新しいサロンの顔が設置された。サロンの表情は見違えるほどに良くなった。美人というよりは、可愛いという感じだ。

「素晴らしい!最高だね!」

僕は中村さんとハイタッチする。
扉の設置後は、店内のウインドウの飾り棚の取り付けもしてもらった。せっかくの機会だから、中村さんには扉以外にも色々とお願いをしていたんだ。

「さすがプロだなぁ。仕事がキレイ」

「これくらい朝飯前っすよ!」

初夏の太陽に照らされ汗ばむ額をぬぐいながら、屈託のない笑顔で中村さんが言う。中村さんが来てまだ小一時間ほどだが、サロンはみるみるお店っぽくなっていった。

この人に頼んで良かった。
その扉からは幸せのオーラが漂っているような気がした。

15時。
扉設置が終わった中村さんと入れ替わるように、次は看板屋さんが到着。庇(ひさし)の上に長いはしごを掛け、看板設置作業にはいった。僕は少し離れた交差点の向こう側に行き、遠目からビルを眺める。僕が想像していたよりも簡単に看板がついた。

うん、シンプルでいいではないか。

看板設置が終わると次は真新しい扉のガラス面へスウィートブライドのロゴマークの貼り付けだ。看板屋さん2人で貼る役と垂直平行を見る役に分かれ、結構な時間をかけながら貼り付け作業をしていただいた。

僕は扉がついた事にたいそう感動していたが、その扉にロゴマークがつくと、さらに感動した。

2013年5月27日。

扉と看板がついた翌日。
今日はブレスフローラがサロン前の花壇にお花を植えに来てくれる日。しかし残念ながら、僕は遠方で打合せがありサロンで立ち会う事が出来なかったため、ブレスフローラにはお任せでお願いをする事になった。

夕方打合せが終わり、僕は一目散にサロンに戻った。

(わぁ・・・・)

僕は言葉を失った。
サロンの花壇が美しいラベンダー畑になっていた。青紫色のラベンダーはとても愛らしく、スウィートブライドのイメージにピッタリだ。僕は感激した。そして涙があふれてきた。僕はすぐに本田さゆりに電話をした。

「本田さん!今見ました!めっちゃきれい。ありがとう。ほんまにありがとう」

「良かったぁ~、喜んでくれて。完全な水色がなかったから合うかな?どうかな?と思ってたんだけど、良かったです。この花は私からのオープン祝いね!」

「えっ!そうなんですか!ありがとうございます」

僕は電話をしながら何度も頭を下げた。人のやさしさが身に沁みて、また泣いてしまった。

これで店舗改装は、ほぼ完成となった。

ーーー サロンの出店が決まってから2ヶ月。
実際には5月1日に鍵をもらってから、改装への一歩を踏み出した。本来ならプロの設計士に頼んで準備をスタートするところだろうが、あくまでも自分たちの手で創り上げる道を選んだ。

たった3坪ほどしかないお店。
でもその3坪には、会社の夢がたっぷりと詰まっている。だからそのひとつひとつに自分たちの想いを込めたかった。

家族みんなで作った。

ただ見せかけだけのお店ではない。愛情がたっぷり詰まった心から親身になってお2人と接することができるお店を作ったんだ。

スウィートブライドが目指すのはそこだ。

狭い店だけど、ゆったりと長居してほしい。それは新郎新婦様以外の業者さんであっても同じこと。飛び込みの営業マンでも同じだ。

美味しい珈琲を飲みながら、まるでカフェのようにゆっくりと話ができるような、そんなお店になればいい。

(うん、そうだな。それがこのお店のコンセプトなのかもしれないな)

サロンが出来上がった事で、そんな新たなコンセプトのようなものも見えてきた。

もう改装は完成したので、早速6月1日からのオープンでもよかったのだが、あえて6月11日にしたのはその日が僕の母の誕生日だから。ただそれだけの理由だ。2009年のオードリーウェディングでのトラブルの時は両親にも多大な迷惑をかけた。だからオープン日を6月11日にこだわったのは、そんな両親への罪滅ぼしのような気持ちからだ。

皆に支えられて、今がある。

出来上がったサロンの中で、僕はそれを噛みしめていた。


第65話につづく・・・





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