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第74話 音響のピース

スウィートブライド代表中道諒物語。ウェディングプランナーに憧れ百貨店を退職し起業。でも40歳で全てを失う大きな挫折。そこから懸命に這い上がりブライダルプロデュースの理想にたどり着くまでの成長ストーリー。※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

2014年1月。

年が明けるやいなや、僕のスケジュール帳がパンクするくらいすさまじい勢いで問い合わせが入ってきていた。その全ては、昨年暮れにホームページを立ち上げたばかりの姫路結婚式ドットコムからの問い合わせであった。

お客様が選ぶ会場も多岐に渡り、姫路ベアリーフ教会、書写寺、寸翁神社、相生神社、グランメゾンなど、バラエティ溢れる顔ぶれで、土日が埋まっていく。自宅着付けからの出立ちも3組ある。新婦のヘアスタイルもカツラもあれば、地毛での日本髪もあった。

全てをぶち込んだような、まさに春の宴状態であった。

姫路結婚式ドットコムの出発は、文句のないものであった。しかし、年が明けても僕を悩ませていたのはチーム作り。早急のチーム再編が当面の課題になっていた。

そこでまず僕が着手したのは、スウィートブライドのコンセプトである「プライベートウェディング」のベースであるグランメゾンでのレストランウェディングチーム。

昨年秋のレストランウェディングで、ひとつのミスが発生し、僕は大きな勉強をする事になる。そこで改めて浮き彫りになったのは、専門式場とプロデュース会社の違い。この問題についてはいつも悩んでいる事ではあるのだが、同じ「結婚式」を扱っているのに、根幹の考え方が180度違うというもの。本当に不思議な話ではあるが、専門式場とプロデュース会社のこの溝は永遠に埋められそうになかった。

昨年秋のミスは、まさにそれが原因であった。同じ仕事でも育った環境で考え方はこうも違ってくるもので、もはや「それはダメな事」と注意する事さえ僕は諦めた。

相反する僕の正義と専門式場の正義・・・。ここには大きな差があり、物事には色んな正解があるのだろうと、割り切るしかなかった。

ーーー ピアホテルの深夜バイトが明けた朝、僕は神戸の音楽事務所の鈴木さんに電話を入れた。鈴木さんと話をするのは、ブライトリングのチャペル事業の話を断って以来であった。

「鈴木さん、おはようございます」

「お!なかみっちゃん、珍しい!どうしたの?」

「スウィートブライドの音響の事で、ちょっと相談があって」

「俺、やろか?」

「ハハハ。相変わらず軽いなぁ。まぁでも、そういう風に言ってくれると嬉しいけど、鈴木さんは忙しいでしょ?」

「まぁ忙しいのは忙しいけど、いける時はいく、という条件でどう?」

「ハハハ。無茶苦茶な(笑)」

「なかみっちゃんとの仕事は楽しかった記憶しかないから。あの当時はなかみっちゃんもいつも楽しそうな顔して仕事してたから、いい想い出しかないよ。で、話の内容は俺じゃないの?(笑)」

「うん。俺じゃない(笑)6年前、オードリーウェディングのレストランウェディングの時に、鈴木さんが紹介してくれた音響さんいたでしょ?岡山の山形さん。今回、その山形さんに声かけようかと思っていて、それでもともと紹介してくれた鈴木さんにひと言許可をいただこうと思って、電話させてもらったんです」

「そういう事ね!またまた律儀に。そういうとこ、なかみっちゃんらしいね。山形さんはフリーで、僕の部下とかそういうのではないから、自由にやりとりしれくれたらいいよ。でも、俺もいける時いけるから!(笑)」

「ハハハ。ありがとうございます。じゃ、山形さんに連絡しますね。鈴木さんは、これから僕が何か困った時のスーパーサブで待機しといてください」

「しゃーないなー。まぁじゃぁスウィートブライドのベンチをあたためといちゃるわ。なかみっちゃんも頑張って!」

6年前、グランメゾンでのレストランウェディング。音響に穴が出て、急遽ヘルプで来てくれたのが、山形雅人。年齢は僕と同じくらいで、仕事に対する考え方もよく似てて、たった一度の仕事で意気投合した。僕にとっては良き想い出の人であった。

昨年の暮れ、司会音響の事で悩んでたら、ふと山形さんの事を思い出してチーム再編の足掛かりにできればと考えた。僕の仕事のやり方は、専門式場を舞台に組織で仕事をされている人とは合わないという事がはっきりとわかってきたので、やはりフリーでやっている人を探すほかなかった。そういう意味でも山形さんという存在は今のスウィートブライドにはピッタリのように思ったのだ。

山形さんに連絡するのは本当に久しぶりだった。僕の事を覚えてくれているのか不安ではあったが、電話でその声を聞いた瞬間6年前に一気にタイムスリップしたかのように話が弾んだ。

山形さんの相変わらずの浪花節が心地いい。僕がスウィートブライドの現状を語るまでもなく、今僕がやろうとしている事をすぐに察してくれるので、仕事に対する考え方が同じ人というのは、こんなにも楽なものなのかと実感した。

2014年2月22日。

この日は、姫路ベアリーフ教会で挙式、フレンチレストラングランメゾンで披露宴という結婚式の一日。

グランメゾンの2階の控室で鷲尾響子の新婦ヘアメイクが始まった頃、1階のメイン会場に音響機材を運び込む山形雅人の姿があった。

「おはようございます!」

久しぶりの一緒の仕事。何だかお互いに照れくさいものだ。音響機材の搬入を手伝いながら、他愛のない話をする。そうこうしていると、ブレスフローラの本田さゆりが会場装花の搬入でやって来た。

2階からは鷲尾響子の明るい笑い声が聞こえ、僕の目の前では本田さゆりが彼女らしい愛に溢れた装花のセッティングをし、その奥で山形さんが音響機材のチェックをしている。僕にとっては、これ以上ない心安らぐ光景であった。

(音響を山形さんにお願いして正解だったな・・・)

ひとつ、ピースが埋まった。


第75話につづく・・・






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