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「世界『倒産』図鑑」を読んで考えたこと。

「世界『倒産』図鑑」は、グロービスや大学で教鞭をとっている、荒木博行さんが書かれた本であり、25社の倒産した企業の事例を分析した内容となっている。

例えば、サントリーの伊右衛門やパナソニックのレッツノートなど、成功企業のケーススタディは戦略本にもよく出てくるが、倒産事例のみを扱う本はかなり珍しい。

著者は、倒産を「戦略上の問題」と「マネジメントの問題」の大分類で区分けし、25社のケースを分析するのだが、企業の成功体験による経路依存性が倒産の要因になっているケースがとても多い。

例えば、ポラロイドやコダックは、夫々インスタントカメラやフィルムカメラの成功体験に引きずられた結果、かなり早い段階からデジタル技術に目を付けていたものの、経営資源を既存事業からデジタル技術に移すまでの決断はできなかった。
この事は、今から考えれば「なぜデジタルに投資しなかったのか?経営が悪いのでは?」と思うのだが、倒産した企業は、成功している目の前の市場や技術に対して適切な経営判断をしていたし、資源を適切に配分していた。決して、社長が私腹を肥やそうとしていたわけではない。しかしながら、突如として現れた市場や技術によって、既存の市場が破壊されてしまったのである。

ちなみに、ポラロイドやコダックを倒産に追いやった企業は、ソニーやカシオなどの日本企業であった。本を読むと、日本企業や日本経済の躍進が多くの海外企業の倒産の引き金になっていることに気付かされる(ex.GM、ベアリングス銀行、MGローバー等)。

時は流れ、GAFAを中心にアメリカ企業が再び主権を握っている。カメラの市場でいえば、デジカメで市場を制した日本企業は、iPhoneを中心とするスマホ企業に市場を奪われた。

この背景にはシリコンバレーを中心にスタートアップ企業が新たな市場を創り出したことが挙げられる。クリステンセンが「イノベーションのジレンマ」で述べているように、大企業が経路依存した持続的イノベーションを繰り返す中で、経路に依存しないスタートアップが破壊的イノベーションを生み出したのだ。
かつては、破壊的イノベーションを起こしていた日本企業達は、今や大企業となり、成功体験の経路に依存し、破壊される側にまわってしまったと言える。

一方、このような状況に危機感を持つ大企業も存在する。
日立製作所がグローバルロジック社を1兆円で買収するのは、企業な中にシリコンバレーを作り出し、破壊的イノベーションを生み出すことを狙いにしているからだと思われる。話題のジョブ型雇用含め、どこまで本気でやり切り、経路依存を断ち切れるのかが成功の鍵となるだろう。

恐らく、5年後、10年後にこの意思決定に対して様々な分析が行われると思われる。現時点では、成功するのか失敗するのかは分からないが、過去のケースを下に、企業の意思決定の背景を探ってみることは、面白い。
「世界『倒産』図鑑」は、視野を広げ思考を深めてくれる、とても良い本であった。

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