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#01「ピッチの外の組織論」-組織に向き合った岩尾憲が起こした変化-

「ピッチの外の組織論」とは?

唐突なタイトルなので、最初に少し自己紹介をしたい。
私は10年ちょっと辺境の人事をしている。
会社生活を振り返ると、組織で悩む多くの人を見てきたし、自分自身もたくさん悩んできた。その悩みが解消できた事は無いのだが、組織に向き合う時にヒントにしているのが、フットボーラーの「組織への向き合い方」である。

具体的には、年齢の比較的近い、長谷部さん、長友さん、内田さん等の本やコメントに多くの活力をもらって今に至る。年の離れた経営者の自伝よりよっぽど彼らの生き方の方が心に響く。

では、自分がフットボーラーのどういう言葉に活力をもらっているのか?
誰かにメタファーとして伝えたくても上手く伝えられず、悔しい思いをする場面に最近いくつか直面した。
恐らく、自分自身がフットボーラーからもらっている活力を言語化できていないのだと思う。
これを言語化できれば、誰かの「組織への向き合い方」のヒントになるのでは?と思い「ピッチの外の組織論」を描き、マガジンとして整理する事にしたい。

岩尾憲の「組織への向き合い方」

今回は岩尾憲というフットボーラーを通して「ピッチの外の組織論」を描いていきたい。日本代表ではないので、知らない方もいるとは思うのだが、彼のキャリアは、大卒で湘南に入団し、水戸への移籍を経て、徳島で5年間キャプテンを経験した後、今年から浦和でプレーしている。

そんな彼が、2018年~19年の間に徳島ヴォルティスで経験したことが、「組織への向き合い方」のヒントを与えてくれる。ここではその2年間を振り返ることにより、彼の組織への向き合い方を紹介したい。

虚無感(2018年の出来事)

結論から言うと、2018年はチームが崩壊した年にあたる。
その実情を彼自身が以下のように綴っている。

2018年、突然自分の範疇にない大きな壁にぶつかった。フットボール人生で初めて、チームが崩壊するのを目の当たりにしたのだ。僕は何も出来ずに ただ傍観していた。いや、傍観するしかなかったが正しいかもしれない。僕はキャプテンとして、この状況を好転させるだけの手札を何一つ持っていなかったからだ。崩壊したチームにいる僕は強烈な虚無感に包まれていた。何か事があれば解決策を思考したが、何も見つからない。
他の選手たちは、他人に責任を押し付けてその場をやりくりしていたように思う。誰一人楽しそうじゃないし充実した顔もしていないように僕の目には写った。掲げたチーム目標が達成できていないのは言うまでもない。

ZISO「無力であることは、有力だ。」(note)

少しこの言葉の背景を説明する。
徳島ヴォルティスはJ2のカテゴリーに属し、17年、最終節に敗れてしまったものの、チームはJ1が見える位置まで来ていた。だから、サポーターだけでなく、選手たち自身も18年シーズンへの期待は大きかったと思う。ただ、シーズン序盤からあまり結果が出せなかった。
追い打ちをかけるように主力選手4人がシーズン途中に移籍をするという事態に陥った。その結果、チームが崩壊し、最後の9試合は一度も勝つ事が出来なかった。文字通りチームが崩壊したのだ。

では、崩壊した組織に対して彼はどのように向き合ったのか?それが19年に組織が前に進まなくなった時の彼が選択した行動に現れている。

捉え方(2019年の出来事)

19年のシーズンが始まり、シーズンの序盤から中盤にかけて1勝5分3敗というJ1昇格には極めて厳しい状況に陥った。

この時、彼は組織にどう向き合ったのだろうか?
少し長くなるが、彼自身が言葉を引用したい。

「(シーズンの)序盤から中盤の手前くらいにかけて全然駄目だった。それで方向性を選手だけでミーティングをして、その後に1敗1分だったんだけど、やってて感度が全然違って。グッドルーザーではないけど次に繋がる負け方だなっていう感覚が強かったし、続けていけば結果が出るという感覚が凄くあった。自分達を信じているというか、結果に対して変にぶれない。やるべき事をやって、結果は選べないという「捉え方」で。
(ミーティングではどんな話をしたのか?という問いに対して)
現実として起きている事とそれに対する夫々が思っている「捉え方」について話をして、『正しい捉え方ってこうじゃないか?』という整理の仕方をした。間違えて捉えると人のせいにするし、どうしても外に向いてしまう。監督なのか戦術なのかチームメイトなのか、色々とあると思うけれど、そういうのを書き出して、何に対して自分たちがストレスを感じているのかっていうのを皆で話し合った。『これで1年終わっていいのか?』『文句を言うのは簡単だけど、それって寿命が短いサッカー選手としての貴重な1年をこんな終わり方してもったいなくないか?』っていう精神的な整理をした。その結果、人のせいにしていても結果が出せないし、お互い良いところを認め合って、悪い部分もあるけど、足りないところは皆で『助け合おう』という考えが生まれた。それで勝った負けたはどうでもいい。そういうことが共有できた。」

ZISO TALK #23 「勝敗を隔てる勢いの実体」(youtube)

端的に言うと、起きている事実に対して、メンバーと「捉え方」を整理することにより、組織を前に進めたのである。言葉にするのは簡単だけど、個が極めて強いプロサッカーチームで、これを実現する事は相当な覚悟が必要だったと推察される。

19年は結局、J1昇格をかけた試合で勝つことができなかった。しかしながら、岩尾憲自身がチームをつくる上で大切なものを得たシーズンだったと思う。そして、この大切なものは、組織に向き合い続けたことにより、自ら手繰り寄せたのである。

「ピッチの外の組織論」

岩尾憲が起こした変化は「チームレジリエンス」の一つの形だと考えられる。

レジリエンスについては様々な定義があるが、レジリエンスを第一線で研究している池田めぐみさんは以下のように定義づける。

仕事に関わる困難な状況や大きな変化に直面しても、その挫折から立ち直り、前進し続けることができることやそれに必要な能力

池田めぐみ「チームレジリエンスの科学」(CULTIBASE)

要するに、物事を前に進める力であり、変化が激しく先の見えない時代において極めて必要な能力である。
そして、その「立ち直り方」の一つに「捉え方」がある。
よくある例ではあるが、コップに半分の水が入っている場合、それをどう解釈するか?
Aさんは「半分しか入っていない」と捉え、Bさんは「まだ半分も入っている」と捉える。もしかするとCさんは「水じゃなくて酒が飲みたい」と捉えるかもしれない。

岩尾憲は、2019年のミーティングの中で、「勝てない事実」を組織として捉えなおし、起きている事実に対して組織での共通理解を生み出した。

会社組織を考えた時に、「起きている事実」を組織として捉えなおすことは、あまりに少ない。一つの事実(ex.売り上げが上がった(下がった)、顧客満足度が上がった(下がった)等)に対して、そこで働く人の「捉え方」は夫々異なる。ある人は「市場環境」に理由を求めたり、ある人は「自分達」に理由を求めたりする。
ただ、その「捉え方」の差に向き合うことは稀である。
多くの会社組織は「起きている事実」に対して向き合わず、曖昧なままやり過ごすのである。

ただ、曖昧なままやり過ごしていいのか?
それだと組織を前に進めることができないのではないか?
前に進められなければ、組織が腐敗するのを待つだけではないだろうか?

では、組織を前に進めるためにはどうすればいいのか?

この問いに対して、岩尾憲の組織への向き合い方は大きな示唆を与えてくれる。岩尾憲の「ピッチの外の組織論」から学べることは、「起きている事実」に対する「捉え方」を一人で考えるのではなく、誰かと話すという事である。この事を組織全体で行うことは難しいと思う。ただ、たとえ2人でも同じ組織の誰かと「起きている事実の捉え方」を話すことによって、事実に対する新たな発見と共通理解が生まれ、組織が前に進むのではないかと思う。

今日は、岩尾憲か浦和レッズの一員として初めて埼スタのピッチに立った日となった。ビッグクラブの一員として新たな壁にぶつかると思うが、唯一無二の存在としてこれからも組織と向き合い続けて欲しい。そして、その姿にこれからも刺激を受け続けたい。

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