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村弘氏穂の『日経下段』2017.4.1~

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土曜版日本經濟新聞の歌壇の下の段の寸評
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2018年2月の記事一覧

村弘氏穂の日経下段 #46(2018.2.24)

村弘氏穂の日経下段 #46(2018.2.24)

たくらみの雪が溶かしたカレンダーもう永遠に今朝だよ 行くなよ

(東京 櫻井朋子)

 『たくらみの雪』とは何だろう、雪に意思を持たせている。『雪が溶かした』とは何だろう、雪を溶かすものや雪に溶けるものはあっても『雪が溶かす』ものは現実的にはまずない。その雪が溶かしたという『カレンダー』とは何だろう。また『永遠に今朝』とは一体どういうことなのだろう。そして結句の「今朝だよ 行くなよ」は誰に対して云

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村弘氏穂の日経下段 #45(2018.2.17)

村弘氏穂の日経下段 #45(2018.2.17)

まさかりの先から滑り落ちる様にフェリーでむつ湾渡る午後五時

(横浜 夏目陽子)

 青森県北東部のまさかりの先である脇野沢港から蟹田港へ向けて、午後五時に出航するフェリーは一年にわずか十便しかない。五月の連休と八月の盆休みにだけ特別に運航している便だ。帰省だろうか、観光だろうか、それを知る由もないが、作者が描き出したこの下北半島と津軽半島の間の凪には何らかの哀愁が漂っている。蟹田港に着くころには

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村弘氏穂の日経下段 #44(2018.2.10)

村弘氏穂の日経下段 #44(2018.2.10)

体調が良くないというイルカばかり応援してしまうイルカショー
(栃木 早乙女 蓮)

 作者の熱い眼差しは四、五頭いるイルカの中でジョニー(仮)だけに注がれている。そのジョニーばかりを応援する理由とは、弱い者に対する純粋な慈愛心だろうか。それとも、ちょっとダメなところがある男性を愛してしまうタイプの女性によくある事例の母性だろうか。はたまた、本番に弱い自分自身をジョニーに投影してしまったことによる親

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村弘氏穂の日経下段 #43(2018.2.3)

村弘氏穂の日経下段 #43(2018.2.3)

本当の自分の方を捨ててきた柔らかそうな沢蟹がゐる
(横浜 小鷹佳照)

 甲殻類でありながら、水中で脱皮した沢蟹の体は120~150時間ほどはやわらかいままらしい。その間は外敵に狙われやすいので、水中の石の下などに潜んで体が硬化するのをじっと待つのだ。実際この段階で天敵に襲われて生涯を終えてしまう個体も多いという。脱皮とは成長のために古い外皮を脱ぎ捨てることに他ならないが、もしかすると、殻を打ち破

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