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村弘氏穂の『日経下段』2017.4.1~

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土曜版日本經濟新聞の歌壇の下の段の寸評
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2017年5月の記事一覧

村弘氏穂の日経下段 #9(2017.5.27)

村弘氏穂の日経下段 #9(2017.5.27)

おそろしい国への旅で100ドルを隠してくれた土踏まずさま

(東京 市岡 和恵)

 靴の中に忍ばせた100ドル。なんだか小説のようなシーンだが、結句のサイレントエリアへの畏敬によって至極のリアリティが宿った。無事帰還したからこそのエピソードだろう。100ドル紙幣に描かれているのは、おそろしくなりつつある国家の建国の父ベンジャミン・フランクリンであるところに、ブラックユーモアが隠されている。彼はた

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村弘氏穂の日経下段 #8(2017.5.20)

村弘氏穂の日経下段 #8(2017.5.20)

言うなれば知覚過敏のごとくなり四月五月の新人たちは

(白井 毘舎利道弘)

 人物をモノではなくて状態に喩えてしまうところに、研ぎ澄まされたユーモアがある。通常、言うなればのあとには、もっと明確な名詞が置かれるはずなのに。過敏なのは主体でもあり、新人たち自身でもあるようだ。新人は六月もまだ新人であるはずだが、どちらかの心に目にはきっと、見えない何かがコーティングされて、すっかり治癒されることだろ

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村弘氏穂の日経下段 #6(2017.5.6)

村弘氏穂の日経下段 #6(2017.5.6)

本当の気持ちの1.1倍の声で謝る遅刻の電話

(大阪 エース古賀)

  謝意に含まれている誠意と真意は、常に同じとは限らない。目と目であれば伝わってしまうかも知れない本心だが、口と耳との関係であれば、加減が可能なのだろう。僅かなさじ加減の倍率に、狡猾さと後ろめたさが共存しているような面白味がある。『気持ち』という語自体、副詞的に使えば『ほんのわずか』。しかしながら、相手にも『気持ち』は存在するの

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