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【奇譚】奴隷の子孫、突然王子になる:DNA鑑定でベナンの王家の末裔と判明!

はじめに:先祖への関心

 とある民家での会話だ。「うちのご先祖、槍の名人がいたんですって」。鴨居に飾られている一本の槍を指さしながら、少女は語った。

 また別の民家での会話だ。「ひいおじいさんが殿様に拝領した盃じゃ」。立派な桐箱の中から取り出した盃を愛おしげに眺めながら、老婆は言った。

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日本の盃(ピーボディ・エセックス博物館蔵)

 よその家の先祖自慢を聞いて、磯野家の長男・カツオはすっかり羨ましくなってしまった。自宅に帰るや、彼は父・波平にこう尋ねた。「お父さん、うちの先祖で有名な人いないの?」

 その問いかけに対し、波平はこう即答した。「いたとも! ご一新の頃、磯野藻屑源素太皆という人がおった」。いったい何をした人物だったのか。波平曰く、「お彼岸におはぎを三十八食って大評判を取った」。カツオは「そんなの人に言えないや」と落胆を隠せなかった――

 * * *

 上記は、長谷川町子『サザエさん』(朝日文庫、1995年)の25巻63ページに収録されている4コマ漫画を文章化したものである。

 『サザエさん』は言うまでもなくフィクションであるが、このカツオの言動に共感できる人は多いはずだ。誰しもが、きっと一度は考えたことがあるだろう。自分の先祖にはどんな人がいたのだろうか、どこに住んでいたのだろうか、遠戚にはどんな人がいるのだろうか、と。

 このように家系に対して強い関心を抱くのは、われら日本人だけではないらしい。全人類に普遍的な感情かどうかは知らないが、少なくともある程度は民族、地域、文化の垣根を越えた感情であるようだ。

 現代にはDNA鑑定という血の繋がりをほぼ正確に調べる手段がある。祖先崇拝が盛んな文化圏である中国では、近年「有名な歴史上の人物との関係を発見する」ことを目的とするDNA鑑定が静かなブームとなっているという。

 またアメリカでは、先祖の出生地を知ることを目的としてDNA鑑定を利用する者が少なからずいるそうだ。彼らの多くは、かつてのアフリカ出身奴隷の子孫であり、アフリカの具体的にどの地域が家族の故地なのかを知りたいのだという。

王の末裔と判明した米国人の物語

 奴隷貿易が盛んだった旧世紀、アフリカ大陸から大勢の人々が奴隷として両アメリカ大陸に送られた。彼らは賤民ばかりではなく、部族の王子・王女などの高貴な身分の者もかなり含まれていた。

 そうした貴人の中には、その血統ゆえに現地で尊敬を集める者もいくらかいた。しかし、今日に至るまで尊貴性を保ってきたのはアフロ・ボリビアン王家くらいのものであり、ほとんどの貴種は血筋が今に伝わっていないか、伝わっていたとしても市井に紛れてしまった。

 そんなわけで、DNA鑑定を試してみたら予想外にもアフリカの貴人の血を引いていることが判明したという事例もいくつか報告されている。

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