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300円雑記【水のような言葉】

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#小説

デンプン糊と少女【小説】

デンプン糊と少女【小説】

小学生の頃の話。たぶん二年生くらいだったんじゃないかな。昭和も終わりを迎えようとしている時分。

クラスに垢にまみれた女の子がいた。今から思えば多分ほとんどお風呂にも入っていない生活をしていたのだと思う。髪に艶はなくどこかカピカピしたまま、散髪もしていないのか毛先はみだれ放題だった。

ほとんど育児放棄された女の子。
そんな子供がクラスに紛れて一緒に過ごしていた。

勉強はどうにも嫌いな様子だった

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ねこ【小説】

ねこ【小説】

「100万回生きたねこって知ってる?」
古びた喫茶店で彼女は一つの絵本を話題に話を振ってきた。

あぁ知ってるよ。何回も生き返るねこの話だ。ある時は王様のねこだったし、ある時は泥棒のねこだった。ずっと誰かのねこだったし、いつも可哀相な死に方をしてはその都度時代を変え何度も生き返った。そんな話さ。

「でも最後は生き返らなくなるのよね。」

あぁそうだな。最後は誰のねこでもない野良猫になるんだっけ。

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知らんぷり【短編小説】

知らんぷり【短編小説】

あれは大学生の時だったからもう二十年も昔になる。だから終わった過去の話だと言っていい。

ちょうど携帯電話が普及し始めた頃でもちろんスマホなんてものは影も形もない。今ではガラケーと呼ばれる携帯電話での連絡手段は短めのメールと通話が主体だった。今では考えられないが皆そこかしこで通話していた。プライベートなこともね。

文字での通信と違い通話は声が漏れる。だから近くにいれば会話の内容がこちらに筒抜けに

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一粒の涙とクジラの海

一粒の涙とクジラの海

ある朝のこと、クジラのキューちゃんは泣いた。
ちっさなクジラの目からは一粒の涙があふれた。

「もしかしたらお友達は私のことなんて好きじゃないかもしれない」と言ってママクジラに泣きついた。

「そんなわけないじゃない」とママクジラはキューちゃんをなぐさめた。

でもキューちゃんの心は晴れなかった。
最近どうしてもお友達が自分を遠ざけてしまっているように感じてしまったから。

「わたし悪いことしてな

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