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博士後期課程で培った研究能力を活かし、毒性のスペシャリストへ|山本穂高 氏(PhD)

2023年3月修了
現職:中外製薬株式会社 トランスレーショナルリサーチ本部  安全性バイオサイエンス研究部

2023年3月に卒業し、中外製薬株式会社に入社。安全性バイオサイエンス研究部に研究職として配属され、新しい医薬品の候補化合物に対して遺伝毒性試験を行っている。未知の分野で右も左も分からない中でのスタートだったが、安全性を正しく評価することの重要性を感じつつ、日々奮闘している。そんな山本穂高さんにお話を聞きました。


M2で決めた博士課程への進学

元々、研究に対する憧れは学部生の頃からあったのですが、研究の道をどこまで極めていくのかというところははっきりとは決めていませんでした。奈良先端大では別所研究室(遺伝子発現制御研究室)でゼブラフィッシュの側線感覚器の研究に取り組んでいました。共焦点レーザー顕微鏡を使った、ライブイメージングという手法をよく行っていましたが、細胞一つ一つがダイナミックに、時間を追っていくごとに変化していく様子が面白くて、細胞や生命の美しさを感じました。(博士課程の学生は)就職が難しいのではないかといった不安もあったため、M1の時には就職活動と研究を並行して進めていました。M2の4月くらいに面白いデータが出てきたことが決め手になり、この研究をもっと続けたいと思い、博士課程への進学を決めました。多少の不安はありましたが、決めたからにはやるしかない!と思い博士課程では3年間全力で研究に取り組みました。

自身の成長を感じ、人脈の広がりができた博士課程時代

修士課程の頃に比べて、博士課程で大きく変わったと感じているのは研究に対する主体性です。自らの研究テーマについて情報を集め、次の実験を組み立て、その結果を解釈する。そこからまた次の実験を考え、先生と議論する…という一連のサイクルを徐々に自分でできるようになっていったことが、博士課程に進んで実感した成長だと思います。その中で、D2の春頃から徐々に、読んだ論文や海外の研究者たちの出した論文などと、自身の出した研究データの差を考えられるようになってきました。D3の夏頃に、カナダのモントリオールで開かれた国際学会にも参加できて、近い分野で活躍されているアメリカの研究者と直接お会いして、 研究の話をできた時には、これまでやってきて良かったなと思いました。
(国際学会参加について、)D2の秋頃にNAIST Touch Stone (JST次世代研究者挑戦的研究プログラム)に採択され、研究費補助を受けることができました。研究費の補助がありましたので、良い機会だと思って参加しました。当時は自分の中でかなり大きな挑戦でしたが、今となっては楽しく、印象深い時間でした。

博士課程では仲間にも恵まれたと思います。同じ研究室にいた同期とは何度も夜遅くまで議論や雑談をしていました。加えて、D2の秋に参加した国内学会では、交流会の企画運営にも関わりました。他大学の博士学生と協力して企画を進めましたが、他メンバーも私と同じく学位取得後の進路として企業への就職を考えていましたので、意気統合して後の就職活動中のみならず、現在も連絡を取り合っています。こういった繋がりができたのも博士課程に進んだからこそだと思います。

入社を決めた理由

就職活動はD2の夏頃から博士課程学生の早期選考を行っている製薬メーカーさんを5社程度受けました。中外製薬の面接は、当時取り組んでいた研究に関する質問が多く、面接全体の8割以上を占めていたのではないかと思います。熱心に研究内容を聞いていただいて、本当に研究開発を重視している会社なのだというのを実感して入社を決めました。

一つの研究をやり切ったことが今の仕事につながっている

今は、新薬開発における非臨床安全性を担う部署である安全性バイオサイエンス研究部に所属しており、主に遺伝毒性試験を担当しています。入社した当初は正直に言うと、遺伝毒性という言葉すら分かっていない状態でした。遺伝毒性とは化合物が DNAや染色体に傷害を与えるかどうかを評価する分野ですが、これは主に発がん性などに関わってきます。遺伝毒性は見落としが許されない重要な毒性の一つですので、責任感とやりがいを感じながらやっています。責任は大きいですが、経験豊富な先輩方に見守っていただきながら、1つ1つの化合物を正しく評価できるように頑張っています。博士課程ではゼブラフィッシュを用いていましたが、今は主に培養細胞株を用いています。実験の規模も学生時代に比べ大きくなり、慣れるまでは少し時間がかかりました。実験系は異なりますが、基本的な生物学の考え方は変わらないと感じており、サイエンスに則って議論できる環境が整っていると思います。その点において博士後期課程時代に一つの研究をやりきって身につけたことが今の仕事にもつながっていると思います。

大学時代と入社してからの違い

学生時代は休日も夜中も実験できたのですが、会社ではそういったことは難しいです。ですので、時間の使い方をいかに効率よくするかということを考えるようになりました。当たり前ことかもしれませんが、実験の作業を始める前に、最初から最後まで全部手順を決めて、その通りにしっかり実験をやってその結果を解釈する、という流れが明確になりました。

仕事で大事にしていること

博士課程で身についたこととして研究に対する主体性だと先に述べましたが、一方で仕事をする上で大事にしていることは、周囲の人にしっかり頼ることです。学生時代の私自身は周囲を頼ることが苦手だったと思っています。当時、先生からは「データを持ってこい」と何度も言われていました。研究が深まってくるにつれて、徐々に自分に自信がついてくると、先生と研究の相談をすることも苦痛ではなくなっていきました。その経験は今となっては上司にすぐ相談すること、自分で判断できないものに対して、すぐに相談を持っていくという事につながっているなと思います。いずれは自分ひとりで多くのことをできるようにならないといけないですが、自分ひとりで無責任な仕事ではなく、周囲の人を頼りながら責任ある仕事をしていきたいと思っています。

今後の目標

まずは遺伝毒性の担当者、研究者として一人前になることですね。今は先輩方に頼りきりなので、まずは1人で責任を持って仕事できるようになっていきたいです。 レベルの高い環境に身を置かせてもらっていると感じているので、今与えられている立ち位置で一人前になることを目標としています。

奈良先端大の皆さんへメッセージ

学生時代は自由に使える時間が多いので、生活リズムも狂いがちだったりすると思います。私は修士課程で就職せずにそのまま博士課程に進学しました。修士課程で卒業したほとんどの同期は既に自立しています。修士課程で一度就職活動を経験していましたので、周囲と比べて働かずに自分の好きな研究を続けていることに焦りを感じたこともありました。そこで私は博士課程では働いているつもりで研究をするということを自分に課していました。具体的には朝は必ず9時にはデスクに座って作業するとマイルールを作っていました。人によってスタイルは違うと思いますが、自分で決めてリズムを整えた生活を送ることが 大事かなと思います。
(就職か進学かを悩んだ後に博士課程進学を決めたことに関して、)私自身は幸運にも楽しんで3年間の博士課程の研究を進めることができました。博士課程に進学した全員が必ずそういった研究ができるかと言われるとそうではないと思いますが、自らの研究をしっかりやり遂げるというのは、私としては非常にやりがいがあり、面白いことでした。そういったことを面白く感じることができる人には、博士課程はいい環境だと思います。ぜひ全力で目の前の研究を楽しんでほしいと思います。