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週末考

フランスに来てちょっと驚いたことの一つに、

「週末は何してたのー?」と月曜日の度に聞かれることがある。

もしくは、金曜日の夕方に、

「週末は何して過ごすの?」とみんなが挨拶代わりに聞くこと。

お店の店員さんだって、金曜ともなれば心持ちお顔が晴れやかで、「ありがとう」の代わりに"bon week-end!"(よい週末を!)と見送ってくれる。

ようは、みんなが週末の過ごし方をものすごく大切にしているのである。

なんだかバカみたいですが、最初はこれがプレッシャーだった。というか、今も・・・

だって、週末の度に人様に堂々と披露できる予定を立てておくなんて、私には至難の技だ。


日本にいた頃は、週末は、

「ゆっくり休みましょうね〜」という感じだった。

「週末何しますか?」なんて同僚に聞いたことほとんど無い気がする。

そもそも、今日が金曜だとか、明日から週末だとか、あまり意識していなかったような気もする。

寝て、回復して、また週が始まる。そんな感じだった。そこには何の目的もないし、それが普通に許されていた。


ところがこっちでは、月曜の朝は「週末何してたの?」が決まり文句なのだ。

"rien spécial"(特に何も・・)なんて答えでは、相手を白けさせてしまう。

相手を「へー!」と驚かせる、スパイスの効いた体験談の一つでも話せなくて、人としてどうする!みたいな気持ちになる。

別に何もしなくてもいい、とは思う。

ただ、何もしない、ということの、きちんとした理由付けは必要だ。

「先週は本当に忙しくてね、夜も寝ないで働いたんだ。だから、久しぶりに週末はゆっくり休んだよ」

こんな理由付けがあれば、週末に何もしてなくても許してもらえるだろう。


でも、

「気がついたらずーっと家にいた」

「いつも通り特に何もなかったよ」

そんな答えではダメなのだ。


角田光代さんの旅エッセイに、こんな記述があった。

「ヨーロッパで有意義な旅をしようと思ったら、目的を持たないといけない。あの町に行ってこの建築を見る。この列車に乗ってあそこに行き、だれそれの絵が飾られている美術館にいこう。目的は具体的であればあるほど、多くあればあるほど、その旅は充実する。ガイドブックに載っていないものを見ようと思ったら、それもまた、目的にしなければならない。わざわざガイドブックに載っていない場所を選び、そこに足を運ばなければならない。」(『世界中で迷子になって』)


私はこの記述がものすごく腑に落ちた。

ようは、何事にも目的と理由付けを必要とするのがヨーロッパなのだ。そしてフランスも。


街を歩けば魅力的な建築があり

いたるところにスペクタクルが溢れ、

美術館に行けば世界の名画が見放題だ。

何もしないなんてありえない。

何も見ないなんて死んでるのと同じ。

さあ、どこへ行く?

さあ!さあ!

あなたは何をする?

それはどうして?


旅人だけじゃない。

住んでいる人たちの姿勢がそもそもそうなのだ。

「あなたは何をしてるの?」

「フランスに何しに来たの?」

「フランス語を学んでどうするの?」

「どうしてパリに住んでるの?」

「週末は何するの?」

そのすべてにきちんと目的と理由付けがいるのだ。

生きることとは目的に向かって歩むこと。



「求めよ、さらば与えられん」


この街で生きるということは、そういうことなんだなぁ。



パリのドタバタ日記はこちらです→
https://viequotidienne629.wordpress.com



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