見出し画像

PASSION ユバの底力を知る

圧巻だった、クリスマス公演

 クリスマスは農作業は行われない。
 ユバのクリスマス公演のはじまり、はじまり。

 ユバ農場の敷地内にある劇場は多くの人で賑わっていた。
 19時半、第一部・音楽はピアノの独奏で幕を開けた。
 弓場リサちゃん(15)、スマちゃんこと辻須磨香ちゃん(16)が黒のズボンに純白のブラウスを着て、それぞれピアノの音色を響かせれば、弓場茜ちゃん(11)と小林レオくん(アリアンサ村)は連弾を披露した。
 続いて器楽演奏。今日の昼間もトランペットやフルート、クラリネットの音が農場内のあちこちで聞こえていたのを思い出す。



 熊本忠博さん(52)と由美子さん(49)夫婦はトランペットとピアノで、ユバの夜をムーディに演出した。フルートの三重奏に続いては弦楽演奏の部。バイオリン、ヴィオラ、バイオリン、チェロなどの12人の弦楽隊が登場した。ピアノを弾いていたリサちゃん、スマちゃんは、今度はバイオリンを弾いている。
 第一部の最後は、ユバの住人のほとんどが参加する合唱である。曲目は「椰子の実」「メリー・クリスマス」「アベ・マリア」「ハレルヤ」。日ごろ鍛えられた体からは力強い声が湧き出ている。大自然に培われた繊細な表現力がそこに重なり、素晴らしい歌声が観客の心に届いていった。

 第二部・バレエはユバの代名詞のひとつである。ユババレエは小原明子さん(73)の指導により、1961年から始められたという。
 1961年から2000年までで、735回の公演を行っているほどユババレエはブラジルで広く知られている。出演依頼が来ても、農場の仕事に休みはないからホテルにはめったに泊まらず、数百キロの道のりを仮眠だけで済ませてしまう。ほとんどが日帰りだそうだ。



 
 始まりは、第一アリアンサの日本語学校生徒たちによる「よさこいソーラン」。ソーランの終わりとともに、次の音楽が流れてきた。照明が暗くなり、聞こえてくるはバンドネオン。「タンゴ・エスパニョーラ」である。ユバオリジナルのタンゴショーで、女性たちが魅惑のステップと手ぶりでスカートを揺らす。40代、50代の動きではない。
 「ハバネラ」の音楽がかかると舞台は再び緊張感に包まれた。独唱はユバの創設者・弓場勇さんの直系にあたる弓場勝重さん(61)である。深く高く力強い声は圧巻だった。


続いては、スマちゃんを始め、ユバの少年少女たちが曲決めから振付けまで考えたという「ピクニック」。陽気な明るい音楽に乗り、リズミカルなダンスが繰り広げられた。
 私はどんどんユバの魅力に引き込まれていく。
 バレエのフィナーレは「ジングルベル」。手拍子とともに出演者が全員登場、会場からは熱い拍手が送られた。


 休憩をはさんだあとは、第三部・劇の部だ。矢崎正勝さん作・演出・音楽の「入植祭・白浪五人男」。内容は、1960年代のアリアンサ村の入植祭の様子を描いたものである。
 「白浪五人男」とは、東海道の盗賊を描いた歌舞伎演目のひとつだという。飽きさせない物語、小道具も演出もどれもニクイものだった。
終幕は、化粧を施した白浪ならぬブラジル移民・五人男が番傘をもって時代扮装に身を包み、花道を登場した。


「生まれは信州諏訪の在、若し頃よりアメリカに苦学力行青年を、雄飛させんと四苦八苦、更には大和民族の、発展のため海外に、移住地設立せんがため、ブラジル、アジア、満州と、世界をまたに駆けめぐり、探し当てたるこのノロエステ・・・日本移民にその名を残す、永戸・稠左衛門~」
五人がそれぞれキレのある「渡り台詞」で名乗りを上げる場面には「やられたー!!」という感覚だった。
これはもう、完全なるプロ。
ユバのクリスマス公演には当然ながらファンもいて、毎年訪れる人が何人もいるという。この日の来場者数はおよそ500人。満員の客席からは「ブラボー!」との声が飛び交った。
 公演は3時間半にも及んだが、あっという間に過ぎてしまった。長時間イスに座っていたせいでお尻が痛くなっていたことに気づいたのは、幕が閉じられたあとだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?