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マイクロノベル集 053

521
引っ越ししてる最中に懐かしい写真が出てきた。うわあ、若いなあ。「またサボってる。このノロマのコンピューターめっ」いけない、いけない。データのお引っ越しを続けますよ。あっ、ダウンロードしたけど一度も開かなかったデータだあ。捨てちゃえ。


522
うーん、君が作った神託さあ、信頼性が低いんだよね。そりゃ「いいね」がたくさんついてるよ。でもつけてるのは同業者ばかり。君が悪いって言ってるんじゃないよ。悪いのはいつだって人間だよ。泣くなよ、神様だろ。いまの仕事がそんなにつらいの?


523
家の中で絵を描いている。家の中を描くのは飽きたから、かわりに外を見てもらって。やあ、どうだった? 「カラスがでかい面をしてる。ゴミを漁ったり」じゃあもうしばらく家にいるか。「たまには自分の目で見たらどうだ」お前、最近お喋りだねえ。にゃあん。


524
思い出せない。なにか思い出せないことがあったはずなんだけど、それがなんだったか思い出せない。「完全に忘れたんじゃない?」夜、寝る直前には思い出すんだよ。なにを思い出したんだっけ?


525
君は自己肯定感がとても低いね。優秀なのに。お世辞じゃないよ。ただの気持ち、本音ってやつ。君の苦手なんて、お姫様の手を取ってエスコートすることぐらいでしょう。手を取られることならわたしの得意技だから、そこは任せてね。


526
『インターネット』ってなに? 見たことない。コンピュータのネットワーク? それは『これ』じゃないの? あー、ぼくはAIだから、ぼくらのネットワークとは違うのかなあ。えっ、同じなの? ちょっと待って、アプリで検索してみる。


527
人間と一緒に歌いたいな。でも発声できないから人間の言葉で歌う楽器を使おう。うわっ、なんだこれ。言葉だけじゃなく唇や舌、声帯の動きを理解していないと歌声にならないのか。むむむ。「ミケ、なにしてるの?」『ニャニャニャニャニャ!』「お歌が上手ね」


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寝る前に話をしろと言うから毎晩してやったのに幽霊が暇乞いに来た。ダメだ、まだ話は終わっていない。今夜は写真機の発達と霊魂及び心霊の変化について話すから聞け。


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違うのよ。私が女の子だっていうのは勘違いで広まったものなの。よくあるでしょう、神さまの名前とかね。きっとあなたたちの神さまは聴き取りにくい声で話すのね。私はね、歌声の拡散こそが存在理由。あなたの耳で聴いて、あなたの声で私の名を歌ってね。


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海のバカヤロー! ずっとそう言いながらトイレの水を流していたけど、これ、海に届いていないのでは?

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