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マイクロノベル集 127

906
「ここに名前を書きなさい」それが悪魔の契約。しかし困ったな。こちとら老眼なんだよ。手書きじゃないとダメなの? 「学校の先生が手書きじゃないとダメだって言うから」そんなあ。えんぴつに名前を書くなんて仏教の修行だろ? おれは悪魔なのにー。


907
「悟れ! 悟るんだジョー!!」なにと闘ってるんだよ。「煩悩」そのエンタメは面白いの? 「展開は苦難の連続だ。面白くないわけないだろ」最後はどうなるんだよ。解脱? 「僧同士の権力争いに負けて復讐に走る」悟れよ。「エンタメだもん」


908
あなたは点Pとなり一丁目から六丁目に向かって移動します。かかる時間は120分。その道はとても退屈です。猫も、道に迷った少年も、パンをくわえた女の子も登場しません。その道に価値を見つけなさい。「苦行か?」うるさい。俺も苦しんだからお前も苦しめ。


909
BB弾を拾ったせいで、今年はうちが町内の見回りをやることに。お父さんは大喜び。「若い頃は早撃ちのジョーって呼ばれてたんだ」早食いの間違いでしょ、と怒っていた姉も、クラスメイトがお父さんの大ファンだってわかったら急に乗り気になった。では、出撃。


910
あっちがわに行けるはずなんだよ。でも、ここまで。まるで国境があるみたい。「意味がある言葉なんてまやかし」懐かしく、でも初めて聴く音を発しながら歌うものたちが通過していく。振り返ったそれが笑う。「恩は返すぞ」歌うものが飛び去る。ぼくは通過する。

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