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マイクロノベル集 277「孤独なロマンチスト」

No.1531
「ピアノを弾いてくれないかしら」彼女が拾ってきたのは、海水で濡れた小さな果実。硬い。まだ熟していないのかも。「まさか食べる気なの?」普通は食べると思うけど。彼女は笑う。「私は果実を譜面にしてピアノを弾いてほしいと言っているの」そんな無茶な。


No.1532
この島にたった一人で暮らす彼女は、毎日漂着物を拾う。果実、ピアノ、そしてついに人間。「私に拾われたからには、私に従いなさい」第一印象は最悪。「さあさあ、言葉が話せるのなら、言葉で表現なさい」純粋ではない孤独。「よろしい」今も印象は良くない。


No.1533
「この果実は島にはない種ね。海流に乗って別の場所からやってきた。植物は多彩な進化を遂げたけれど、私たちの元に流れ着いたのは幸か不幸か。なにしろ芽が出る前に食べられちゃうかも」どうしてそんなに楽しそうなんだろう。「私はロマンチストだからだよ」


No.1534
結局、実を食べてタネは埋めることにした。「いただきます」まるで貴重品みたい。「島にたった一つの実よ?」大陸では雑草かもしれない。「ロマンがない人にはあげません」旅の果てにピアノの上で知恵の実になるとは、思ってもみなかったろうね。「よろしい」


※noteだけで読める、このマイクロノベル集の続きはこちら。



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