マイクロノベル集 134
941
歌が来るぞ。駅の方からびゅんと吹き荒び。俺はカラス。一流の歌乗り。どんなメロディーにも乗ってみせる! え? これって俺が生まれる前の歌? ちょっとムリムリ! ヤメロメロメロ!! とまあ、翻弄されながら飛ぶのも楽しいもんさ。
942
カラスが飛んでいる。さっと茂みに降下して、飛び上がる。街の嫌われ者だけど、翼を広げると大きくて、なかなか美しいじゃないか。爪でしっかりと捕まえたネズミを見せびらかすように俺の前を飛ぶ。病原菌を振り撒く。カラスは排除しよう。
943
人間が来たよ。肌を隠してる。長ズボンに長袖だ。寒くなってきたからね。あっ、仲間がさらわれた。おたすけー。おたっしゃでー。「タネがいっぱいついてるよ」ピッピとはがされて、ぼくらは遠い地に根を張る。
944
知らない人が前から近づいてくる。ハアハア息を切らしている。「こんにちは」軽く頭を下げて挨拶する。おかしい。三ヶ月前、この人は私より太っていた。どこでこんなに差がついたんだ。
945
家の中で粉々にして、熱湯をかける。外からは絶対に中身がわからないようにしなくては。俺はこれを熱力学的ディスコミュニケーション装置と呼んでいる。開けたらあっと驚くカルチャーショック。人気のない林の中で、開く。外で飲むコーヒーがおいしい季節だね。
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