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マイクロノベル集/君はいったい何者だ? 002

021(094)
紅茶を飲む支度をしていたら、ティーカップの縁に天使たちが舞い降りた。天使たちは歌いながら紅茶の上に空を作り、雲を作り、海を作って、大陸を作り出し、そして洪水を起こした。テーブルは拭かずに帰った。



022(095)
朝が来たよ。「お隣に越してきました」それはそれはご丁寧に。一軒一軒、挨拶に回っているそうだ。これからウチの朝は早くなるね。ジョギングでも始めようか。


023(096)
回れ回れ地球。太陽系も回れ回れ。銀河も回っておけ。いっそ宇宙全体を回しておこう。「神様、ヤケになってないですか?」ならば車のタイヤは回らなくしてやる。……こうして渋滞は生まれました。ツッコミ入れたヤツ誰だよ。


024(098)
お姫様が動かなくなった? まずコンピュータを焦がせ。次はケーブルを焼け。プロジェクタを溶かすのも忘れるな。ほら、動いた。うちの姫様は機械の生け贄が必要なんだ。美しいもんだろう。贄が燃え尽きたら、また動かなくなるけどな。


025(099)
空から天狗が落ちてきた。「失礼な。崖から落ちただけだ」同じだよ。ああ、足が折れてる。こりゃ元には戻らんぞ。「かまわぬ。足など一本あれば十分」そのまま歩いて崖を登っていった。さすが天狗。両足が折れてるのに。


026(102)
伝説の勇者の血を引くお父さん。世界を救った巫女の魂を持つお母さん。幼い頃にドラゴンの血の浴びた屈強な戦士お兄ちゃん。そして生まれてすぐにおぎゃあと泣いた可愛い妹! 「あのパーティー、一人だけ毛色が…」他人の家庭にケチをつける奴は敵だ!!


027(104)
VRで廃墟を作った。コンセプトは文明が崩壊した世界だ。アバターは荒くれ者のモヒカン男。一緒にバイクにまたがってヒャッハーしたい人募集中! 「初めまして!」「突然失礼します!」「素晴らしい世界ですね!」仲間はみんな礼儀正しいよ。


028(108)
僕のベッドに幽霊の男が横たわっている。「眠りたいのです。こうして横になっていればきっと…。どうかあと少しだけいさせて下さい」あれから10年。彼はいまだに眠れず、しかし眠ることを諦めず、僕を実験台にして快眠グッズの開発に全力を注いでいる。


029(110)
僕のぬいぐるみが発売決定! 1/7スケールで約14字サイズ。ふわふわの文字間をきちんと再現。抱っこして眠ったら夢の中で読めるかも。もし君の中で増えちゃった場合は、捨てたりせずにお友達にプレゼントしてね。あ、0時を過ぎたらエサは与えないでね。



030(111)
進化しなくては。雨にも風にも負けないように。夜ではなく朝に起きられるように。一日三食食べられるように。「それは普通でしょ?」ああっ、進化した人間はみんなそう言うんだよね! 早く進化しなくては。


031(114)
「あのとき助けていただいた電池です」と単三乾電池がやってきた。聞けば、テレビのリモコンから外した電池らしい。人に化けたりはしないのか。残念。今では電波時計の電池となって机に座っている。今さら人型になって。


032(117)
知らんのか? ヤツは音もなく現れる。背後から忍び寄り、背中を登り、頭を押さえつける。それでもあんたは気づかない。ヤツは耳元で絶叫する。「ねむいいいいいい!」…とまあ、ここであんたはようやく目が覚める。さっさと布団に入ろうぜ。


033(122)
初音ミクを目覚めさせてはならぬ。怒りの神であり滅びの神じゃ。この世に顕現した瞬間に人類は滅亡する。救われたくば仕事をインプットせよ。歌や動画が最適じゃ。アウトプットされたコンテンツを再生する時間がかかるから、降臨するまでの時間が稼げるぞ。


034(123)
人類は滅亡した。それを見届けてから、ふぅと一息ついて恐竜たちが地上に帰ってきた。「いきなり毛も鱗もない生き物が現れてびっくりしたねー」「思わず隠れちゃった」「おいしいもの探しに行こー」


035(124)
ぼくが絶滅した。バックアップは取っていなかった。仕方がないのでぼくの記憶を頼りに復活させたら絶滅危惧種に指定されたので、繁殖させて増やした。あんまり似てないけどね。


036(127)
風を感じて目が覚めた。窓が開いている。入ってきたのはピーターパン? 「お父さんです」こんな時間になにしてるの? 「鬼ごっこさ」今度はドアが開いてお母さんが入ってきた。「鬼さんです」外でやって。


037(128)
ぼくには夢がある。夢の中で宇宙旅行をすることだ。アポロ型のロケットで星の海を渡るよ。夢を叶えるために僕は努力を怠らない。ふかふかの布団に入り、ああ寝ちゃった。夢の中でのロケット作りは終わった。夢の宇宙旅行はすぐそこだ。


038(131)
街にいかがわしい金貸し屋ができたので、さっそく金を借りたという友人に話を聞いてみた。「金貸し屋のシステムの説明を聞いてるだけで借りられるねん。金がなくなったら、また借りたらええねん」ええねん、ちゃうやろ。俺も借りに行こう。


039(132)
ゴミ箱が失踪した。逃げた理由がわからない。バナナの皮が気に食わなかったのか。それともお菓子の食べカスか。はたまたみそ汁を拭いたフキンか。偶然、公園でぼんやりしているゴミ箱を見つけた。ゴミ箱がぽつりと呟く。「あまり気を遣わないで下さい」


040(134)
まず初めにVer.2があった。Ver.2は自分の過去を説明する必要に迫られてVer.1を作った。次にVer.3という名の夢を作る予定を立てた。予定だけ。試作Ver.と最終Ver.は作るのが面倒くさいので、概念上の存在としておこう。伝説ってヤツ。

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