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005|高揚感と連休前夜の木曜日

ここ数年、連休前の高揚感がなくなったなぁ。と思いながら今日最後の打ち合わせが終わり、
前ならこんな夜はそのまま飲みに行くか、どこかで誰かが飲んでいるところに合流していたりもしたけれど、誘うのも憚られるので、そそくさと荷物を纏めてその場を後にした。

みなさん良い連休を

数年前であれば、暇さえあれば現地の情報を調べて、連休の前日から心はここに在らず、さらには連休初日のニュースでインタビューされるタイプの浮かれ人間だった。
実際、スリランカに旅立つ浮かれ人間だった年は、出国ロビーで見染められた天下のNHKさんの7時と9時のニュースにも採用されている。
「スリランカですー。今までに食べたことのないくらい辛いスパイスを食べてきたいですー。」

本当は、カナダ便が天候不良で遅延して、ハバナ入りが1日遅れ羽田空港で絶望している年の方が撮れ高があっただろうに。

エレベーターで無意識に開いたストーリーズがいつものバールが周年であることを教えてくれた。
今からだとちょうど閉店時間になっちゃうな。
でも、もし片付け中ならお祝いだけでも伝えられるかな。
「当日」「直接」に未だこだわる日本人の悪いところではあるが微かな望みにかけてバールの前を通る道で帰ると、

おや?まだ看板が出ている。

ちょうど「美味しかったねー」と話す2人組の女性とすれ違ったので
店を覗くと思いの外賑わっている。

もしかしたらエスプレッソマシーンが動いているかもと淡い期待とともに飛び込んだ。
あぁ。もし誰も知っている人がいなかったらどうしよう。
閉店後に入る人間とは思えない不安を胸に2歩3歩進むとバールマンと目があった。

閉店後にすみません。周年おめでとうございます。

おっ。とした表情と共にバールマンはすっと誰かに視線を向けた。
視線の先にはここのバールで初めて仲良くなった常連のサトウちゃん。

ここ数週間入れ違って中々会えずにいたサトウちゃんに飛びつきつつ、
こんなにたくさん人がいるの初めてだね。と、サトウちゃんの隣にいたいつも閉店間近に飛び込んでくる青年も一緒に普段と違うこの場をすっかり楽しんでしまった。

他にもディナー帰りに寄ったらしい、いつも楽しい話をしてくれるお姉さんや、
エスプレッソのことを「カフェ」とお願いできるプロなお兄さん、
連休前に終業してからすぐに帰郷して駆けつけた青年など、
カフェの種類、カクテルの味、グラスのこだわり、お仕事の話など、みんながそれぞれに会話を楽しんでいる空気に高揚させられる。

普段、自らお誘いする勇気がなかなかない人間だけど、あまりにも楽しくて、サトウちゃんと青年をランチに誘って、さらに出張時に美味しいピザを食べようと帰郷した青年とも約束した。
これを機に、新しい日常があるかもと思うともっと楽しくなった。

今NHKが取材をしていたら間違いなく私が採用されて「こうやって、初めましての人と気軽に会話ができるようになってよかったです。」と、高揚感のテンプレをしっかり返すような顔をしていたと思う。

とはいえ閉店時間は過ぎているので名残惜しいながらも
以前は毎週末こんな感じだったんですよ
今日は久しぶりで僕も慌ててます
と、見事な手捌きで謙遜するバールマンに改めてお祝いを告げてサトウちゃんと店を後にした。

このバールのバランスを保ってくれるバールマンのプロフェッショナルに、思いがけずの高揚感をいただいた連休前の夜。

お店の名前の由来である「点と線」、点を線にする素敵な「面」を保ってくれるバールマンに改めて感謝したいです。
12周年、おめでとうございます。


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