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菩薩達磨が伝えた古式ボディワーク(易筋経、洗髄経)のコツで免疫力やストレス耐性を高めよう

《1−1》調身から調息、そして調心へ
 立位でも座位でも、まず始めに、「調身」を行い、姿勢の癖、動作の癖に気づき、肉体のストレス、歪み、こりやはりを取り去り、「調息」「調心」がしやすい肉体を取り戻していくのである。
 現代の慌ただしい生活では、24時間、重力に肉体が圧迫されている事に気づかず、知らない間に、猫背、反り腰、姿勢が悪くなり、色々な部位にこりやはりがあり、それが当たり前になっている。姿勢が悪いという事は、内臓が押し潰され、スムーズな呼吸がしにくく、調息に悪影響を与えている。
 そこで、調息をスムーズにする為に、「卵を立てるように」軸を整えていく。立位でも座位でも、ただ姿勢(軸)を整えるのではなく、以下の2つの効果を出す為に動作を伴うのがポイントである。


 1つ目は、軸の形成や肩甲骨、背骨、股関節の操作、可動域の確保の他に、全身の筋肉やファシア、筋膜の繋がりを意識しながら、かつ感じながら動作を繰り返し、全身の筋肉、筋膜の協働をうながし、本来の動物的な動きを取り戻すのである。この全身の筋肉や筋膜の繋がりを意識することを「筋コネクト」という言葉で表す。
「筋コネクト」とは、筋肉、筋膜の「筋」と「connect(つなぐ、接続する)」を繋いだ言葉であり、「ストレッチ」や「柔軟体操」ではイメージする事が難しい全身の「つながる筋肉」「つながる筋膜」を表す為に私が作った造語である。

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 図2の様に肩幅で、耳穴、肩峰、大転子、膝関節、外くるぶしが直線になるように立った時に、抗重力筋が筋コネクトして立てている場合と、筋コネクトしていない場合の二種類の立ち方がある。
 抗重力筋が筋コネクトして立てる人は、前後から押してもビクともしない。一方、筋コネクトしていない立ち方の人は、前後から押されると姿勢が崩れるか、あるいは倒れる。前者の人は「根が生えた立ち方」が出来ている人であり、筋コネクトによって全身が繋がり、竹の様な、しなやかな強さが生まれるのである。

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驚くことに図1の姿勢の赤ちゃんは皆、筋コネクトが出来ているのである。達磨のボディワークでは、腕の筋肉群も抗重力筋に筋コネクトさせながら動作を繰り返していく。竹の様な強さは、あの少林カンフーに繋がり、肩こり、四十肩、五十肩とも無縁になることが期待出来る。
 2つ目は、経絡の活性化。全身に張り巡らされている気の通り道である経絡の活性化である。一連の動作を繰り返すことにより、エネルギーの循環が良くなり元気になる。
 ここで言うエネルギーの循環とは、ヨガや気功、あるいは東洋医学、伝統的な武道の世界で広く信じられてきた気(Qi)やプラーナ(Prana)、生命エネルギーの流れのことを指している。科学的に証明されている訳ではないが、こうした古伝の伝統的な知恵のなかでは、肉体と呼吸を整えることが生命エネルギーの循環を高めていくと考えているのである。
 この様な効果を感じながら肉体が整うと、内臓や呼吸筋は圧迫から開放され活力を取り戻す。肉体がリラックスすれば、呼吸は自然に落ち着く。そのため調身が出来ていれば、調息も自ずと出来るようになり、心も落ち着くのである。

《1−2》クラスと日常を分けない
 瞑想(禅)をして、気持ち良さを感じている人が増えているはずなのに、日常生活のストレスは減っているようには見えないのは、どうしてだろうか。
 その原因は、瞑想やヨガなどの教室で感じた「気持ち良さ」を日常で使えないからではないか。また、その「気持ち良さ」の境地で、人と対峙出来ないからではないか。つまり、瞑想やヨガなどの教室と日常を分けているということではないかと考えている。
 ストレスが溜まったからヨガに行くという会話を電車の中でよく耳にする。瞑想、禅、ヨガ、気功等は、たまったストレスを解消するための対症療法のように考えられている印象を受けている。
 私のクラスでは、その「気持ちいい、心身が調和した状態」を職場や現場に持ち込み、ストレスの影響を受けにくいようにする練習をしている。ストレスは、その場で受け流すのが最善の方法だと言えるだろう。私たちは、瞑想(禅)や慢性ストレスに対処する方法を必要としているものの、日常が修行である仏教僧ではないし、日常に大自然がある山伏にはなれないのだから。
 もう一歩進んで、クラスと日常を分けない発想が必要である。カバット-ジン1)が、対人関係のストレス対策に合気道を推奨しているように、武道系の一対一の型は、ストレスを現場で受け流す知恵を内包しているのである。

《1−3》現場でストレスを処理する
 武術や武道の世界では、一人の練習で得た「気持ち良さ」(以下、「調和」と表現する。)を対峙した時に保持出来ているかどうかを「検証」する知恵が伝承されている。例えば、推手(すいしゅ)、聴勁(ちょうけい)、中心取り、などがそれに該当する。具体的な方法の記述は別の機会に譲るが、この「検証」が出来てくると、苦手な人に対しても調和できるコツをつかむ事が出来るようになり、より円滑な人間関係を育む事が可能になっていくのである。
 武術、武道の知恵は、戦う前に、自分自身の肉体と心の調和、そして、相手との調和、つまり、「対人調和」が大切だと教える。それが無ければ単なる戦闘、喧嘩である。
この「対人調和」状態は、練習によって感じ取れるようになっていく。その取得は大変だが、ストレスに溢れた現代社会を生きていく為に、身体と心のバランスを整えるには、それなりの努力が必要なのである。

まとめ
 達磨のボディワークを、「調身・調息・調心」、「クラスと日常を分けない」、「現場でストレスに処理する」の3点にフォーカスして見てきた。
 一番のポイントは、調身・調息・調心であり、知識ではなく実践することが大切である。慣れたら電車の中でも出来る。対人関係で使えれば、日常は天国である。
 「癖」というものは、爪を噛むとか、鼻を触るとか、ちょっとした仕草だけではなく、猫背や反り腰も癖、腕の動かし方にもある。物事の捉え方にも、思考にも、心を閉じやすい癖もある。いろいろな癖が、肉体や心に、必要のない負担をかけていることが多いのではないかと考えている。もしかしたら、達磨のボディワークは、この世に生を受けてから今日まで、心身に染み付いた色々な癖を感じ取りながら、少しずつ取り去り、赤ん坊の様な純粋な姿に戻していくメソッドなのかも知れない。また、こうした特徴がマインドフルネスの効果を高めるのではないだろうか。

文献
1)カバット-ジン ジョン,春木豊(訳),マインドフルネスストレス低減法,2007,北大路書房,京都,p239-254.

名古屋勉(なごや つとむ)
達磨のボディワーク主宰。達磨大師が伝えたとされる古式ボディワーク易筋経と洗髄経に楷書の概念と独自の呼吸法を加えて実践し易くして伝えています。

武術、気功歴32年。少林拳歴11年。中国嵩山少林寺認定気功師、静功指導員。岩田空也氏(武道家、治療家)に師事。少林拳、釋延平氏に師事。世田谷区九品仏で、達磨のボディワーク教室を開催。首都圏のフィットネスクラブで心と身体の鍛練を発信して10数年になる。月刊誌秘伝2016/06月号に「アクティブ禅」が掲載される。

雑誌掲載情報


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