見出し画像

毎日お弁当

お弁当を作っている。毎朝作っている。

それは別に特別なことではないと思う。自分や家族のために、毎朝お弁当を作っている人はたくさんいるだろう。ましてやうちには義務教育を終了した男子高校生が二人いて、それは腹が減ると極端に機嫌が悪くなって周りに当たり散らす長男と、あまり食に興味がなく、放っておくと一日一食で済ませる2Hの鉛筆以上に線が細い次男という、同じ血が通っているとは思えない対称的な二人なのだけど、なんにせよこの子達の生命維持と世界平和のために、毎朝のお弁当作りは私にとって重要なミッションとなっている。

夫は適当に買って済ませているので、平日は概ね2つ。休日は三男のミニバスの試合や練習、それに受験生の長男が朝から塾の自習室に通うので1〜3つ。それを毎朝作っている。

次男が中学生の頃までは、作るのが面倒だと思った平日は、長男に「購買で買って」と500円を渡していた。しかし二人合わせて1000円渡すとなると、普通に『豚肉の特大パック買えるやんけ』と思うし、なんせ今は値上げ値上げの時代、そんな簡単に英世を崩したくない。

となると、作るしかないやんか。

料理を日々のルーティン業務として捉えている私が作るお弁当は、卵焼きとウィンナー、あとはチン。ご飯をチン!残り物をチン!冷凍食品をチン!まぁ、今のレンジはチン!とはいわないけれど、とにかくフライパンよりレンジの方がフル回転していて、私より忙しい。そうやって温まった品々を、皿の上に並べて冷ましている間に洗濯を干し、朝食を簡単に済ませる。

冷めたおかずを詰め、おにぎりをぎゅぎゅっと握り、保冷剤を内側に挟み込んだバンダナでキュッと縛って出来上がったお弁当は、毎日同じランチバックに入れられて玄関に並ぶ。それをいつもギリギリで生きている長男が靴を履いている間にリュックに押し込み、逆に時間に余裕はあるけれど弁当を縦にしてリュックに収める次男に若干いらつきながら二人を送り出してやっと終了…あぁ台所がひどい。

そんな平日朝の戦争を知ってか知らずか、週末を楽しみにしている三男のお弁当は、好物だけを入れる『好きなものだけ弁当』。栄養や彩りなど完全に無視した、ただ三男が食べたいものだけ(ほぼ肉)を詰めたお弁当。これを毎週「幸せ〜」と言いながら食べている。ええ子や。

新学期が始まってからずっとこんな感じで作っているお弁当だが、最近ちょっとこのままでいいのか悩んでいる。特に週7で食べている長男は、メインは変えているとはいえ、同じ弁当箱に同じように詰められるおかずとおにぎりに飽きないのだろうか。たまにはスープジャーに豚汁とかカレーとか、サンドイッチやチャーハンなど変化をつけていきたいところだが、本人からの要望でそれもままならず、毎日同じようなラインナップになっている。



高3長男が「県外の大学を目指す」と言ったのは3月末のことだった。春休みに友達と旅行に行ってその大学の門の前に立ったとき、自分の居場所はここだと感じたらしい。

しかしその大学を目指すとなると今の倍は勉強をしなければならない。塾だけでは追いつかず、短い昼休みも勉強の時間に充てるため、お弁当はパパッと済ませられるおにぎりやおかずがいいと言われた。なので熱々の豚汁なんか入れたら絶対ブチ切れられるし、塾での間食用にロールパンなどを持っていくので、サンドイッチも却下。よって片手で食べられて腹持ちも抜群な「おにぎり最強!」となる。日本人コメ大事。

周りの友達が県外の大学を目指す中、県内の大学を受けると決めていた長男が、できることならあの大学に…と思い続けていたのは知っていた。だから観光地としても有名なその地域に旅行に行くと聞いた時、「ついでに見てきたらええやん」と焚き付けたのは私で、その策略にまんまとハマった長男に最初はほくそ笑んでいた。

それなのに帰ってきた彼の雲ひとつない晴れやかな表情を見た瞬間、『あぁ、この子は本当に目指すのだ』と思うと、少しだけ、ほんの少しだけ、『行って欲しくない』と思った私は、「応援してる」という言葉の中に1%だけ嘘をついた。

「共テ(大学共通テスト)まで目指す。そこで足切りされたら諦める」

真っ直ぐ私の目を見て告げたその決意は、決意というより覚悟だった。この先の努力が報われるかどうかは分からない。それでも今を楽しむより、未来の自分に時間を費やすと決めた長男の覚悟は、私が思っている以上に重く、私が思っている以上に強く、私が思っている以上に揺るぎなかった。その覚悟を受け止めたあと、私は1%の嘘を胸の奥に仕舞った。



「毎日、同じような弁当で飽きへんの?」

悩んでも仕方ないと、こないだ長男に直接聞いてみた。すると「味なんか考えたことない」と即答されて驚いた。マジか。だから週7で食べれるんや…

「それならええんやけど…」

その言葉の中には80%ぐらい嘘が混ざっていたけれど、きっと母の努力なんて泡となって消えてしまうくらいがいいのだ。味なんて覚えていなくても、腹が満たされれば頑張れる。それだけでいいと思うし、それぐらいがいいと思う。

さぁ、今日も頑張りやがれ!




この記事が参加している募集

子どもの成長記録

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?