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創作に正解はない

書字障害がある三男は、形を捉えるのが苦手で尚且つワーキングメモリも弱い。なので文字を書くのも問題を読み解く能力も他の子に比べて遅いし、ひとたびハサミを持てばTシャツまで一緒に切ってしまうほどの不器用さで図工も苦手。

そんな三男も、3年生になって少しずつ自分のペースが掴めてきたのか、読むことに関してはリハビリの先生から「もう書字障害のレベルを脱してきましたね」と言ってもらえるほどの伸びを見せ、この2年半の私の不安を随分と軽減させた。

ただ書くことに関しては、相変わらず『とめ、はね、はらい』はガン無視だし、『コンピューター』などのカタカナや伸ばす発音のもの、さらにそこに小さい文字が入るなんて何してくれんねんと言わんばかりのしかめっ面で書いている。そしてその時の筆圧は異常に強い。

それでも漢字テスト前になると「お母さん、これコピーして。ボク、書いて覚えるから」と自らプリントを差し出して勉強する意欲を見せるようになり、普段は埃を被っている我が家のプリンターのインク消費量をグッと上げた。

この意識の向上は、ひとえに毎回根気強く接してくれているリハビリの先生と、「僕が読めたらマルをしています!」と細かい箇所は目を瞑ってマルを与えてくれる担任の先生のお陰で、本当にもうそこには感謝しかないのだけど、同時に本人も自分の特性を理解し、「これはボク、苦手だから」と向き不向きを自身で判別できるようになってきたことが大きいと思う。


「何に困っているか教えてくれるので僕も助かります」

先日、個人懇談で担任の先生から言われた。困った時に「困った」と言える三男は、身近な人に助けを求めるのが上手だ。しかし少し前までは「どこが分からないのか分からない」状態だったのが、最近になって「ここは分かるけど、ここが分からない」という風に変わってきた。自分が分からない内容を具体的に伝えれるようになったことで、少しヒントを与えれば「あっ、そうか!」と閃くことも増え、それは本人の自信にも繋がっている。

「インプットができるようになってきたと感じています」

読む能力が向上したことで、内容も理解できるようになってきたのだろう。辿々しかった音読は、この頃スムーズになってきたし、いつも後回しにしていた通信教育も「先にやっちゃうね!」と机に向かうようになった。アウトプットはまだまだ苦手だが、読むことへのストレスが減ったことで勉強への嫌悪感が薄まった三男に、私の気持ちも安定している。

「他に何か気になることはありますか」

懇談の最後に必ず聞かれる質問に、「そうですね…」と少し迷ったフリをして答える。

「やはり不器用なので、図工が苦手なのは気になります」

手先が不器用な三男は、絵を書くのも何かを作るのも上手にできない。故に通知表には当然のように『C』が並び、図工がある日は朝からブツブツ文句を言う。

「そうですか。ですがそれは他の子達にも言っているのですが、僕は創作に正解はないと思っていますので、三男君が思うように作ってくれたらいいと思っています」

「え?」

創作に正解はない

その言葉にハッとした。

確かに何かを新たに創り出す時、正解などないかもしれない。誰かの真似じゃなく、その人の感性で創り出した作品は、唯一無二でどれも素晴らしいのだろう。

「三男君は図工が苦手かもしれません。でも『ボク、がんばる』と言って、最後まで投げ出すことはしません。それはすごいと僕は思います」

そうか。諦めずに最後まで頑張っているんだな。それは他の子より出来は悪くても、通知表で『A』はとれなくても、ちゃんと見てくれる先生がいるんだな。

嬉しかった。

服だけじゃなく上履きまで絵の具で汚してくる三男は、クラスでも手のかかる子だと思う。それを私はずっと申し訳ないと思っていたのに、先生は「すごい」と言ってくれた。学校という場所で、多くの生徒がいる中で、三男を否定せずに接してくれている先生がいるのは、三男だけではなく私にとっても嬉しく心強い。

「先生のお陰で頑張れるんだと思います」

「いえいえ」とはにかむ笑みを見て、鼻の奥がつんとした。一緒に笑って誤魔化しながら席を立ち、軽く頭を下げてから教室を後にした。







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