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おすすめ書籍

最近読んだ中で2冊ほど、とても興味深い本がありますので今日はそちらのご紹介です。どちらも味の感じ方に関する内容ですが、その味はいわゆる味覚以外から感じる部分に注目したものです。

1冊目は「おいしさ」の錯覚。著者が”新しい食の科学”と定義する分野をガストロフィジクスと称し、多感覚を通じた味の知覚について様々な実験を行いつつその結果を読み物として紹介しています。ここでは「ナイフやフォークは食べ物を皿から口に運ぶのにもっとも適した方法なのだろうか?」といったような様々な疑問が呈され、そして試されています。

著者のチャールズ・スペンスはオックスフォード大学の心理学者です。彼はポテトチップスを嚙み砕いた時の音を増幅すると被験者がポテトチップスが実際よりもサクサクで、新鮮であると感じることを実証した研究でイグ・ノーベル栄養学賞を受賞してもいます。とはいえ本書の内容は学術的なものではなく、あくまでも読み物として面白く書かれていますのでこの分野の内容に触れる最初の1冊としてお勧めします。

「「おいしさ」の錯覚」は確かに興味深い内容が書かれていますが構成があくまでも読み物としてまとめられているため検証データなどの提示はほぼなく、内容の中立性に欠ける部分があります。そこでこの次に読む本としてお勧めしたいのが、「味以外のおいしさの科学: 見た目・色・温度・重さ・イメージ、容器・パッケージ、食器、調理器具による感覚変化」です。

こちらには「「おいしさ」の錯覚」で扱われているものとかなりの部分が重複する内容が書かれていますが、その説明方法は全く逆で、ほぼ論文集に近い構成となっています。グラフや写真を豊富に使いながら最新研究事例を紹介していますので、前者で読んで興味を持った内容をより深堀していくことが出来ます。

「味以外のおいしさの科学」は500頁に迫るページ数に加え価格が46,000円とかなり高価ですが、版元の株式会社エヌ・ティ・エスさまのサイトから申請することで期間限定で全ページを試読させていただくことが出来ます。なお試読には専用のPDF Viewer (無料ダウンロード可能) が必要です。またこちらのPDF Viewerの公式ダウンロードサイトに掲載されている動作環境によると対応OSがWindowsのみとなっています。Mac OSをお使いの方は別途ご自身でご確認ください。

▼ 試読申し込みサイト

▼ PDF Viewerダウンロードサイト

現在、ワインの造り手たちは自分の個性や嗜好をワインのスタイルの中に表現しようと様々な挑戦をしています。確かにそうした取り組みの一部は成果としてボトルの中に詰められていますが、造り手はその先、飲み手の方の手元のグラスの中までは影響力を持つことが出来ません。

一方でこの2冊で取り上げられているテーマは造り手よりも先、飲み手の方のすぐ隣にいる人物や時には飲み手の方自身がより能動的にボトルの中身に干渉していくことを可能にしようとするものです。そして時に、そうした干渉は本来の個性を上書きするほどの影響力を持ちうることがこれらの本には示されています。

もちろんこうした研究事例をもとにして造り手ができることも多くあります。造り手、売り手、飲み手。三者が三者ともに自分自身の立場から参考にできる内容ですし、むしろこれからは知っておくべきことでもあります。書かれている内容のすべてを信じる必要も理解する必要もありません。ただなんとなくでも知っておくことが大事な内容であることは間違いありません。ぜひ一読してみることをお勧めします。

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