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ワイナリーの四方山話|クラシカルなワインを造るのは難しい?

ワインは音楽やファッションに似ています。どれも基本的には嗜好品、というだけではなく、作品にクラシカルなスタイルがあり、モードなスタイルがあります。そしてそういった各種のスタイルが時間の流れやそれを消費する人々の好みの変化と共にいったり来たりを繰り返しています。

ワインの造りにも時代に合わせた変化があります。最近で言えば、例えば可能な限り人為的な介入を回避しようとする造りが1つのモードです。

音楽にしても服飾にしても、そしてワインにしても、面白いのはクラシカルとモードが必ずしも対義語の位置づけに置かれていないことです。むしろどちらでもお互いの要素がすでに分離不可能なところで混じり合ってしまっている状態にありながら、それでもまったく異なるものとして存在が区別されているように思えます。

ワインでいえば、モードなスタイルが人為的不介入をもっとも重要としているからといって、その対極にあるクラシカルなスタイルでは人為的な介入を全面的に推奨しているのかといえばそんなことはありません。一般にクラシカルな造りと判断されるワインであっても、造り手は介入を必要最低限に抑えていますし、むしろ積極的に人為的な介入をしたワインはクラシカルな造り、とは受け取られないことがほとんどです。とはいえ、冷静に考えてみると、ワイン醸造の過程でヒトが何かしらの介入をしようとする場合、そこにはほぼ必ず、過去にはなかった現代的な技術が必要になります。そうした、むしろモードの時代区分に所属するような手法を用いて造られたワインであれば、それはクラシカルなスタイルにならないのはむしろ当然なのかもしれません。

ここまで、特に言葉を定義することなくクラシカルという表現を使ってきました。一方で、このクラシカルという表現を具体的にどのようなスタイルのワインなのかと落とし込もうとすると、意外に難しいことに気が付きます。

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