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日記 夏、終わるんですか

一昨日ほどだろうか。いつもなら目が覚めてぼんやりと窓の方に目を向けると深緑の影を落とす街路樹が高々とあるのだが、この日ばかりは違った。夏の青空だったものがのっぺりとした雲に覆われていたのだ。梅雨が明けてからというもの祝福を受けたように連日、陽光が降り注いでいたから少し意外だった。それこそずっと夏の日照りが続くのではないかと思わされるほどだったのだ。

僕は曇天の空を仰いて少し寂しく感じた。エアコンをつけずとも快適な日は、夏に限り貴重でそれでいて少し退屈だ。夏の暑さも僕の気力を削ぐが、曇天は無でしかない。曇り空はまさしく心を鏡写しにする。今にも降り出しそうな雨は、決まって土砂降りになりそうだった。

曇り空は晴れなかった。それから天候が崩れ始めた。昨日今日と雲量が多く、ぱらぱらと雨が降った。もう夏も終わりなのだろうか。蝉もあまり鳴かなくなった。

一昨日の曇り空が夏の終わりの兆しだったのかもしれないなと今更ながら思う。その時は、一日くらいこういった日もあると思っていて、次の日は晴れるだろうとどこか夏に期待していた。身を焼くような暑さを期待していた。しかし蓋を開けてみれば、それから塞ぎ込むように衰退し、現在進行形で夏は遠ざかっている。僕たちの下をはなれ、今度は南半球に旅立つのだ。

嗚呼、夏にちゃんとお別れできなかったなぁと僕は少し後悔している。夕方になると雷雨を起こす気性の荒いやつだけど、そんなこと当たり前に知っている僕が、曇り空というしたたかなお別れのサインにも気付けなかったというのが悔やまれる。もうひと頑張りしてくれよと言いたい気持ちもあるが、カレンダー上ではもう九月である。気持ちを切り替えなきゃいけない。


僕の気付けなかった夏の終わり際、近所を救急車がよく通った。あれも夏の最後の抵抗だったのかもしれない。今年の夏はやっぱりいつもと違かった。僕たちは例のウイルスにも熱中症にも怯えて暮らす。そのダブルパンチにどうしようもない窮屈さを覚え、窓から夏空を仰ぐ。夜には、コンビニ帰りに星を仰いだ。

思い出は夏の空気とともにある。僕は今年も夏に熱狂した。ありがとう、サマー。


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