『もしかしたら美人画』の最高傑作「夜鷹図」|「新・北斎展 HOKUSAI UPDATED」の感想②

ハタチから90歳までの北斎を巡る|「新・北斎展 HOKUSAI UPDATED」の感想①

何とも心を乱す絵なのである。

「夜鷹図」は美人画の名作と言われている。

他の美人画といえばこんな感じである。

今の感覚でも美人だと思う。

この人も美人。

でも、「夜鷹図」に関しては、彼女が本当に美人なのかは誰にも分からないのである。何しろ、肝心の顔がほとんど見えないのだ。

※かなり縦長なのでクリックしてご覧ください。

確かに、直感に従えば彼女は美人に見える。

何しろ、とてもかっこいい絵なのだ。

計算しつくされた完璧な構図。極限まで抑えられたモノトーンの色合い。無駄のない筆遣い。

その絵の中で、体をしなやかにねじり、今まさに振り返ろうとする女性。

その姿には潔ささえ感じられ、私たちは孤高の美女を想像する。

そこでふと、私たちははっとする。

しだれ柳、コウモリ、傘といったモチーフ。そして何より、「夜鷹図」というタイトル。

ご存知のとおり、「夜鷹」というのは通りで客を引く最下級の遊女だ。

その境遇になるにはそれなりの理由があるのだろう。彼女は老女なのかもしれないし、重い病気なのかもしれない。

いや、でも、必ずしもそうとは言えない。やはり絶世の美女なのでは…

彼女が美女なのか美女でないのかは永遠の謎だ。彼女はこちらを振り返ろうとするまさにその瞬間に、動きを止めてしまったのだから。

「美人かもしれない」という私たちの直感と、「美人じゃないかもしれない」と思わせる文字と記号による情報。その間で私たちは葛藤する。

自分の感覚に従うことと情報に従うこと、一体どちらが正しいのか。北斎が私たちに問いかけている。

「夜鷹図」を「美人画の名作」と定義してしまうのはもったいない。この絵の魅力は彼女が「美人なのか美人でないのかがわからない」ことなのだから。言うならこの絵は、 「『もしかしたら美人画』の最高傑作」なのではないだろうかと、私は個人的に考えている。

ということで今回の展覧会で間違いなく私の好きな絵の一つになったんだけど、部屋に飾るにはちょっと…怖いなぁ。

※「もしかしたら美人」の夜鷹さんに会えるのはこちら!

「新・北斎展 HOKUSAI UPDATED」 
会期 : 2019年1月17日(木)〜3月24日(日)会場 : 森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ 森タワー52階)

※前回の記事はこちら!

ハタチから90歳までの北斎を巡る|「新・北斎展 HOKUSAI UPDATED」の感想①

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