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45歳、もう一度恋をしてみました③

体験教室から2週間後。
仕事が終わったその足で楽器屋さんに行き、入会申し込みをした。

「切りのいいところで、8月からはどうですか?」

「8月というと3日ですよね?大丈夫です。お願いします」

来月からよろしくお願いします、と椅子から立ち上がったとき
奥から先生が現れないかなとちょっと期待した。
でも、会えなかった。
ちょっと、がっかり。。。
はぁっと小さな溜息が出た自分にはっとする。
あの彼よりも先生に会いたいと思っているなんて。。。

つい、3日前。
あの彼と連絡を取り、レッスン、この日はどうですか?
と提示された土日は祖母の一周忌と重なっていた。
だから、残念だけど延期になった、仕方ない。。。

そして、待ちに待ったレッスン初日。
仕事が終わって帰宅すると
ヒールの低いサンダルにワンピースという格好に着替えた。

教室のドアは開いていた。
ホワイトボードに何かを書き込んでいる先生に
こんにちは、と声をかけると
振り向いてあのお地蔵さんみたいな満面の笑みで迎えてくれた。

改めて、よろしくお願いします、と挨拶した。

先生は一枚のプリントを手渡す。
まるで小学校低学年の音楽の教科書みたい。
だって、ハイハットとスネアとバスドラの三つしか出て来ないから。

先生は厳しい顔や困った顔や怒った顔を全くしない。
本当に小学生に教えるみたいに、ずっと笑顔でいる。
子どもにも教えているから、いつもこんな風に優しいのかな。
そう考えたら、いい大人の自分が子どもと同じ教室に通っていることが
何だかとても恥ずかしくなった。

レッスン時間は30分。
ほんと、あっという間だ。
ガラスのドアの向こうに視線を向けると
もう、4歳くらいの男の子の生徒さんが廊下で待っていた。
ありがとうございました、と荷物を片付けて
何か話をする時間もなく教室を出た。

帰りに先生が勧めてくれたスティックと練習用のパッドを購入した。
ちゃんと練習して、先生に褒められたい。。。
そんな子どもと同じような気持ちが湧き上がってくる。
そして、その気持ちを必死で頭の片隅に追いやろうとした。
だって、、彼に会いたいのでしょう・・・?

次のレッスンまでの一週間がとても長く感じた。
先生に会いたい、、と思う程、あの彼への気持ちが小さくなっていく。
彼に会いたくて始めたはずなのに、これじゃ、本末転倒だ。
でも、先生に会いたい気持ちは抑えきれない。





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