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長月龍誠|小説
2023年1月22日 17:52
《約2600文字 / 目安5分》 温かいご飯の匂い。「よーし。こんなものかな」 ママは私をおんぶしながら、鼻歌交じりにご飯の支度をしていた。リビングの方を振り向くと、いつの間にか薄暗くなっていた。いつもこんな時に、パパが帰ってくる。そう思うとワクワクが止まらない。「完成……かな。ここみ、ご飯できたよー」 歌声がママの背中から聞こえてくる。ご飯、できたのかな。ママの肩に精一杯手
2023年1月22日 17:51
その時、世界から音が消えたかのように感じた。 喉に唾が通る。「……そういえば、言ってなかったね」 水面を見ると、二つの水の揺れが交差していた。「えっと、あたしは」 緊張が走り、自然と手に力が入る。 彼女は下を向き、ゆっくりと口を開ける。「……やっぱり、やーめた!」「えっと……は?」 いきなり顔を上げて、彼女は笑う。場の緊張が一気に緩み、俺は芸人みたく転びそうになっ
2023年1月22日 17:49
この女は中学生くらいだろうか。肩まで伸びた甘いキャラメルのような茶髪の女。所々ボサボサした髪にちょっとだけ愛嬌がある。そんなことを考えるぐらい余裕が出てきていた。 あれから何分も、この女は小さな手で俺の腕を掴み走っている。 一定のリズムの足音と一緒に、段々と鳥のさえずりが大きくなっていく。この女から目をそらすと、近くの小さな森が俺らを見ていた。きっと、この女は森に入ろうとしているんだろう
2023年1月22日 17:46
心惹かれる物語に憧れる。だが、憧れるだけではない。 薄暗さが残る早朝。今日も俺は、物語に出会うため旅へ出る。 ◇ 甲高い音が教室を駆ける。 俺はいつの間にか高校二年生だった。 平日には高校へ行き、休日には家でだらだら過ごす。それをただただ繰り返す。 くだらなくて、つまらなくて、俺はありきたりで普通すぎる日常に飽きていた。 そんな俺は、もちろん非日常に憧れていた。どうすれば日