ワクチンにおけるロシアの妙案
このところ世界中で、ワクチンが話題になっていますね。感染の拡大が収まらないのですから、致し方なしでしょうか。
ワクチンに関しましては、庵忠さんが質の高い記事を投稿してらっしゃいました。今必要な知識だと思います。
ところで、数日前に以下の様なニュースがありました。なかなかに興味深いです。
【ロイター 2020年12月10日 ロシア、ワクチン接種で2カ月間「お酒やめて」 市民から不満も】
(前略)首都モスクワに住むエレーナ・クリベンさんは「80日間もお酒が飲めないなんてあり得ない。特にお祝いの時に飲めないとなればストレスがたまり、ワクチン(の副作用)よりも体に悪い」と話した。
実は帝政ロシア、ソビエト連邦時代から、幾度となく禁酒、節酒を試みてきましたが、ことごとく失敗に終わっています。ロシア人にとってお酒を断つのは難題なのです。
とはいえ、寒い地域で身体が冷えるほど、感染、発症のリスクが高まる事は間違いありません。ロシア人も、当然そこは理解しています。
胸中を推察するなら「ワクチンは接種したいけれども、2ヶ月の禁酒は無理。けど、感染はしたくない」といったところでしょうか。
それなら、人と一緒に飲まず、1人(もしくは家族)で飲む以外にありません。結果的に大半のロシア人は外出を控え、在宅が基本になると予想できます。
ロシア政府からすると、国民の外出を抑制しつつ、ワクチンを確保する費用も削減できてしまうのです。
国民性を考慮した見事な施行ではありませんか?そもそも、本当に2ヶ月も禁酒する必要があるのか疑問、いや必要なのでしょうね。
さて、そうすると「どれだけ酒にだらしない民族なのだ」という話になってしまいますが、ロシア人にはロシア人の事情があるのです。
ここは、名誉を守るためにも補足が必要でしょう。お時間に余裕のある方は是非とも最後までお付き合いください。以下、長文ですけど・・・。
◇ 箸にも棒にも【鴨葱】
これは僕が若かりし頃のお話。ロシアの地方都市、さらには郊外の峠を1人の女性と歩いていました。8月だというのに、日が沈む時間帯ともなれば肌寒く感じます。
彼女の名前は「りょん」。そう、あの時の女性です。
皆が待つ宿までは、まだかなりあります。「急がないと」そう考えた矢先に、1台のソアラ(TOYOYAの誇る高級スポーツカー)が、2人を追い抜いたところで急停止したのです。
2人の他には誰もいません。当たり前ですよね。間もなく暗くなるという時に、峠を歩く物好きなどいるはずがないでしょう。
とすると、用があるのは、僕かりょん、どちらかです。嫌な予感しかしませんね・・・。
いったん立ち止まってクルマを注視していると、降りてきたのは若い男性と女性でした。
彼らは無警戒で近づくやいなや「君たち日本人?」と尋ねてきたのです。肯定すると嬉しそうに名乗りました。
アレクサンダーとマリア。
嘘をつけ。そんな名前のロシア人がいてたまるか。ロシア人なら、シミチョフやコジスキーあたりが相場だろう?(すみません、偏見です)
どう考えても偽名ですね。ありがとうございました。
@シミチョフさんのページ
投稿記事のクオリティは高く、お役立ち記事が多い。
@コジスキーさんのページ
誰も傷つかない優しいnote記事の書き手。
さて、アレクサンダーとマリアはこう主張したのです。「これ日本車なんだよ」「僕たち悪い外国人じゃないよ」「一緒にドライブしようよ」と。
誰が乗るか。日本車で親近感を演出する作戦か?怪しすぎるだろう。こういう手合いと関わってはいけません。
なんだか会話するのも億劫になり、無視してやり過ごそうとしたのです。
ところが、いきなり事件が起きてしまいました。
りょんに目を向けると、マリアと和気あいあいと歓談しながら、後部座席に乗り込む最中ではありませんか。
りょんよ、君はアホなのかい?はっきり言って想定外です。困ったやつめ。
ここで選択肢はふたつあります。
① リスクは承知、りょんに同行する
② 僕だけ離脱、宿で待つ皆に報せる
常識的に考えれば、②以外にあり得ません。2人揃って消えてしまえば誰にも気づいてもらえませんから。
ところが、愚かな僕は、あろうことか①を選択してしまったのです。まさしく若さゆえの過ち・・・。
2人を乗せたソアラが軽快に走ります。僕は助手席、りょんは後部座席です。これでは逃げ出すための密談もできません。
どうでも良いのですが、ドアが微妙にカタカタ振動しているのを覚えています。外観は奇麗でしたが新車ではなかったのでしょう。
もしや、日本のどこかの街で、ある日忽然と消え去ったソアラではあるまいね?
その後、いくつか観光名所を案内されました。ただし、田舎都市ですから聞いたこともない場所ばかり。そのうえ真っ暗です。ちっとも楽しくありません。もう帰りたいです。
時間ばかり浪費しては埒があきません。ここは勇気を出して仕掛けるべきでしょう。
意を決して「暗くなったから、そろそろ観光は無理じゃないかな?」と話しかけてみました。そろそろお開きにしましょう、そういう意味です。
するとアレックスは「それもそうだよね」と快諾してくれました。思惑通りです。言ってみるものですね。
ところが、ここはロシア。遠まわしな表現を察してくれるはずがありません。浅はかでした。
観光巡りが終わるのは望むところですが、あろうことか、アレックスとマリアの仲間が待つ店の前でクルマが止まったのです。
10人以上はいましたね。状況が悪化してしまいました。最悪です。
そういうわけで、アレックスの仲間たちに挨拶を終えると、皆さんが持ち寄ったウォッカが所狭しとテーブルの上に並べられました。
どうやら2人のために、宴を催してくれるようです。ちっとも嬉しくありませんけどね。と言いますか、まだ店の外です。
ちなみに店は、異国情緒あふれる洒落たバーでも、レストランでもなく、昼間だけ営業している雑貨屋さんで「夜は誰もこないから安心して」とのこと。いったい何に対する安心なのでしょう?
日本で言うなら、コンビニの前にたむろするようなノリだと思います。ぶっちゃけ寒かったです。
5センチ程度でしょうか。小ぶりなガラスの容器を手渡され、ウォッカが注がれます。
ロシアでは、日本の「乾杯!」に相当する音頭はありません。変わりに誰か1人がスピーチし、話した内容に相応しい言葉を選び、それが乾杯の音頭になります。
例えば「今日の出会いに!」と、アレックスが杯を掲げれば、皆もそれに合わせて唱和します。そして、一気に呷るのが流儀だそうな。
安全が保障されない異国の地で酔いつぶれるわけには参りません。
とはいえ、こういう場で主役が拒否するのも勇気が必要です。暴漢どもを下手に刺激するのは得策ではありません。量も少ないですから1杯くらいは付き合いましょう。
アレックスの長々としたスピーチ(何を喋っていたのかは不明)が終わりました。
「「「「今日の出会いに!」」」」
えぇ、一気に呷ってやってやりましたとも。
ただし、盛大にむせました。のた打ち回る僕をみてアレックスの仲間たちは爆笑。楽しそうで何よりです。強過ぎるのですよ、ウォッカは・・・。
喉が焼けるだけではなく、全身にアルコールが廻り、いきなり火照り始めるのです。
すると、間髪入れずに2杯目が注がれてしまいました。今度は他の誰かがスピーチを始めます。それが終わると、
「「「「俺達の友情に!」」」」
えぇ、やってやりましたとも。2回目はむせたりしません。日本人なめんな。
さらに、3杯目。え?まだやるの?と戸惑っていると、マリアが説明してくれました。特別な催しでは延々と繰り返すのがロシア流だとか。まじですか・・・。
語り合いながら楽しく飲もうよ、と思うのですが、一気飲みすることで身体を火照らせ寒さを凌ぐとのこと。
つまり、ロシア人にとってアルコールは、単なる嗜好ではなく生きていくための必需品なのですね。
「なるほどなぁ」と感心していると、りょんに容器を取り上げられました。
あげく「ここはアウェーなのよ?アホなの?」などとのたまうのです。アホだと?まぁ、正論なのですけれども。なんだろう、この「オマエが言うな」感は。
その後、りょんは「この人(僕のこと)限界みたいだから、そろそろ連れて帰るね」と別れを告げて、難なく離脱を成功させてしまいました。やるやんけ。
ちなみに、アレックスとマリアに宿まで送って戴きました。うん、実は良い人たちだったみたいです。そんな気がしていましたとも。
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