見出し画像

行動 / 九州一周自転車の旅(1)

 今から、6年前のことー。

***

 会社を辞めた後、九州に行きたくなった。せっかく暇になったこの機会に、前々から興味があった、九州を巡ることにした。歴史に文化に食に自然に、九州には見どころが満載だ。幸か不幸か、時間はたっぷりとある。ゆっくりと時間をかけて、旅をすることにした。

 今回の旅では、「関東から九州へはヒッチハイクで移動」そして「九州はママチャリで一周」することにした。とにかく、エネルギーを発散させたかったのだ。退職直前、鬱々としていたし、不健康な生活で体も澱んでいた。その反動でか、精神的にも、肉体的にも、思い切ったことをしたかった。

***

 出発当日、旅に出るのがとても億劫になった。特に、ヒッチハイクのことを考えると、気が重くなった。「恥ずかしい」「ずっと乗れなかったらどうしよう」「会社辞めて何やってんだろう」いろんな考えが巡った。意を決して家を出た後も、足取りは重かった。

 通勤ラッシュが過ぎた田園都市線の車内。なお残る人間の湿気と、弛緩した雰囲気の中、不思議な気持ちで電車に揺られる。用賀駅で降り、しばらく歩いた。到着したのは「用賀インター」。ここは、神奈川におけるヒッチハイクの聖地らしい。この場所から、旅を始める。気持ちはまだ重々しかった。

***

 人生では、たった一つの出来事が、これまでの「世界の見方」を変えてしまうことがある。大げさかもしれないが、その時の経験も、その一つになった。道路脇で「名古屋方面」と書いた紙を掲げた、まさにその瞬間。一台の車が止まった。近づくと、おじさんが車に乗せてくれた。それは、一瞬の出来事だった。ヒッチハイクを開始して、10秒も経っていない。さっきまで、あれこれ考えていたのが、馬鹿らしくなるほどの、成功だった。おじさんはとても良い人で、静岡のサービスエリアまで乗せてくれた。

 人生初のヒッチハイクは、これ以上無い成功に終わった。確かに、この成功は幸運だったと思う。何より、おじさんの親切心のおかげでもある。ただ、行動なしには、成功も幸運も、素敵な人との出会いも、得られない。時には考え過ぎずに「まずは、やってみる」。こういうことが、大事なんだな、と、この経験を通じて学んだ。自分と世界が、少しだけ変わって見え始めた。

次回につづく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?