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収録モード / 小値賀島旅行記③

前回の続き。

縦書き原稿

次回に続く。

横書き原稿

 旅の序盤で、実は気づいてしまった。撮影機材は置いてきたはずなのに、私は未だに、頭の中で「収録」し続けている、と。

 今回の旅のコンセプトは、スマホを家に置いていき、かつYoutubeの撮影も行わないことで、純粋に旅それ自体を楽しむ、というものだった。そして、そんな旅の様子を、エッセイにまとめようと考えていた。だが、この「エッセイ」が問題だった。

 エッセイであれ何であれ、発信を前提にした途端に、脳が「収録モード」になってしまう。この風景は、エッセイに使える。この出来事も、エッセイに使える。この感情も、エッセイに使える…。旅を、世界を、「エッセイを書く」という視点で眺めて、記憶しようとしてしまう。もしくは、メモに書き残してしまう。せっかく撮影機材を置いてきたのに、これでは「撮影」が「メモ」に、「動画」が「文章」に、「Youtube」が「note」に変わっただけで、「純粋に旅自体を楽しむ」という目的が果たされないのではないか。私は知らぬ間に、発信に毒されていた。

 そんなことを考えている内に、電車は出発した。乗ったのは、8:56分発の「JR快速シーサイドライナー・佐世保行」。11:05に佐世保に到着し、そこから12:05分に小値賀島行きのフェリーに乗る予定だ。今のところ、スマホがなくても順調に進んでいる。スマホがないことによる違和感や、情報や繋がりとの断絶による不安感といった様なものも、今のところない。ただ、手持ち無沙汰ではある。ふと周りの乗客を見渡すと、若い女性も、おじさんも、皆スマホを覗き込んでいた。

 「シーサイドライナー」は、その名前とは裏腹に、長崎を出た直後は山がちな道を走り抜けていく。序盤はトンネルばかりで、窓の外の景色は真っ黒になった。朝早かったこともあり、電車の揺れに、次第にうとうとし始める。しばらくはトンネルを出る気配もない。目の前に、新しい情報はなくなった。私は目を閉じて、収録モードを一旦オフにすることにした。

次回に続く。

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