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出発 / 小値賀島旅行記②

前回の続き。

縦書き原稿

次回に続く。

横書き原稿

 旅行先の下調べは一切無し、とは言いつつも、宿とフェリーの予約だけは事前に済ませておいた。加えて、電車の乗車時刻と宿への道順をノートに記してある。これで、離島の宿までは無事に辿り着けるだろう。荷物に関して言うと、スマホとパソコンといつもの撮影機材を置いていくことは決定していたのだが、迷った上で、単焦点レンズをつけた一眼レフカメラのみ持って行くことにした。心動かされる景色に出会ったときに、目で見たままに近い風景を、数枚残しておこうと思ったのだ。これで旅行の準備は、ほぼ完了。残りは当日の朝、着替えなどをカバンに詰めれば良い。

 あまりに簡素な準備だったためか、出発当日の朝になっても、旅に出る感じがしなかった。その日は、雲一つない晴天。天気予報をチェックしてみると、長崎県内は今週いっぱい青空が続くようだった。よしよし、といつもの調子でのんびり支度をしていると、意外と電車の時間が迫っていることに気がついた。急いで諸々の準備を済ませる。最後に、スマホの電源を落とし、ベッドの上に放り投げ、家を出た。

 私の家は、長崎駅のほぼ正面に立つ、山の斜面地にある。長崎駅までは、歩いて大体30分ほど。「鉢巻道路」という、山のおでこに当たる部分に敷設されたを道を進み、正面に駅を見下ろす地点まで来たところで、一気に斜面を下ると到着する。駅までの道の景色は、何度見ても感心する。今日は特に、真っ青な空と、瑞々しい山の緑が美しい。すり鉢状に広がる長崎のまちも圧巻である。すり鉢の底の真ん中で、目下、19階建ての市役所新庁舎の建設が進んでいる。私は心の中でこの建物を「逆パノプティコン」と呼んでいる。

 駅を見下ろす地点まで来た。長崎駅も近年リニューアル工事が進み、駅舎は真白く新しい。長崎は、まちの移り変わりが凄まじく早い。たった2年しか住んでいない移住者の自分ですら、その変貌ぶりに驚く位だ。永遠に終わる気配がない、地元横浜駅の工事とは対照的である。ただ、私は、この建設ラッシュで造られるこのまちの変化が、良いものなのか、そうでないのか、まだよく分かっていない。山の上からまちを見下ろすたびに感じる、複雑な気持ちを今日も抱えつつ、駅に向かって斜面を下った。

次回に続く。

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