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スマホを置いて旅に出る / 小値賀島旅行記①

縦書き原稿

次回に続く。

横書き原稿

 近頃、旅先のどこへいっても、撮影ばかりしていた。景色を見ている時も、食事をしている時も、何かを体験している時も、常に手元にはカメラないしはスマホがあった。似たようなことは、多くの人にも心当たりがあると思う。ただ、私の場合、Youtuberの端くれであり、かつテーマが長崎の魅力の発信であるため、それが顕著であった。長崎市内全域を巡った時も、長崎県内各地を訪れた時も、旅の様子を動画にまとめて発信した。発信を前提とした旅行は、それはそれで楽しいのだが、一方でどこか純粋に旅自体を味わえていない感覚があった。

 そんな微かな違和感を抱えていた時、私は二人の友人から影響を受けた。一人は、文筆家の友人で、彼女は「スマホのない旅」をテーマに北海道を旅行し、その様子をエッセイにしていた。スマホによる情報や繋がり、もしくは刺激から離れて、旅先で生じる自分の思考や感情を掬い上げて文章にする。深みのある旅の楽しみ方だと思った。影響を受けたもう一人は、新聞記者の友人で、彼はキャリアに悩む中で長崎を訪れ、その時の様子を旅行記としてまとめていた。心の葛藤と旅の記録とがうまく溶け込んだ文章は、沁み入るところがあった。その後、彼の文章は小冊子(ZINE)となり、一つの形ある作品となった。

 スマホを持たず旅をして、そこで自分の思考と感情に向き合う。それらを掬い上げて文章を綴り、最後は一つの作品にする。こういうことを、したいと思った。スマホも、パソコンも、いつもの撮影機材も置いていく旅。からだひとつと、必要最低限の荷物、あとは自分の感受性のみを携えて、旅に出る。旅先の下調べも、一切無しだ。現地を気の向くままに巡り、出会った偶然に身を任せてみたいと思った。

 そういうわけで、私は旅に出ることにした。行き先は、長崎県は五島列島の北部にある島、小値賀島。この島を訪れるのは初めてで、ほとんど何も知らなかった。それが良かった。これで、限りなく全てがからっぽに近い状態になった。この空白に、何が埋まっていくのだろう。何を見て、何をして、何を食べるのか。誰と出会うのかも分からない。そういう旅を、これから始めようと思う。

次回に続く。

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