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あなたの声に恋をする

ほぼ毎日、スマートフォンでラジオを聴いている。

朝、布団を畳んでいる時、タンスの上に置いて、「ごきげんよう」の声に心の中で「ごきげんよう」と返すなどして聴いている。
食器を洗う時には上着のポケット越しに音を鳴らし、机に座って絵を描く時や外を歩いている時は、Bluetoothイヤホン越しに聴く。

note以外ではradiotalkというアプリを主に使っている。

トークテーマから脱線してあちこち転がって行く会話が好きだ。二人組や三人組さんの配信は、笑い合う声が心地良い。
例えば、相方さんが「そういえば、あれやなあ」と話を脱線させかける度に、「俺はそっちへは行かへんぞ!」と踏みとどまろうとするのが、仲良くて可笑しくて、私は奥歯で笑いをスルメイカみたいに噛み締めながら、にこにこしてしまう。

好きなものの話を聴くのも、愉しい。
アニメやマンガ、推しのアーチストさんや好きな食べ物の事を話す時、日頃の配信ではクールな語り口の配信者さんでさえ語彙力が崩壊してしまって、「是非観て!」とか「可愛い!」しか、連呼できなくなってしまう。そういう声には熱量が沢山乗っていて、日向ぼっこをしている時の日差しみたいに愛おしい。

「あの瞬間に流し目になるのが超絶かっこいいんです!」とか「食べ比べたけど、やっぱりあのお店の中華まんが美味しい!」と、想いの丈を語る声は、大好きだという気持ちが、耳元に、心に、真っ直ぐに届いて、まるで笑っている顔が目に見えるみたいで好きだ。聴いていると気持ちがぽかぽかする。

「カッコいい玩具が手に入ったのですか、それは素敵ですね」とか「ヒプマイってなんですか?ふむふむ、声で戦うのですか」とか、相づちを鬱陶しいくらいにやたらめったら打ちたい。素敵だと思いたいだけ思い、心を躍らせてあなたの話を聴いていられるところが、ラジオは心地いい。もっと聴かせて欲しいと思う。

ちょっと悩んでいたり困っている声を聴く時もある。どうにか進もうとして立ち止まったり悲しかったりする気持ちに、私は耳を傾けて、そうかあ、と小さく頷く。私の姿は向こうから見えもしないし、言葉を返しても届かないけれど、そうかあ、とやっぱり小さく頷く。

時々、強い論調に出会うこともある。けれどそれは状況や人を批判しているのではなくて、傷つけるためでもなくて、憤りや不安が、感じるままそこにあるだけ。

気持ちが声と言葉に寄り添うように流れているのを感じ取る。そういうものに、流れる川のせせらぎに指先を差し入れるみたいに触れて、少しだけ掬って、滴がこぼれ落ちる間に、こういう想いなのかなと感じていくのが私は好きだ。

ラジオは、それぞれの配信者さんの今の気持ちを、まるで瞬間を写真で写し取るみたいに、音で残していく。ああ、なんて素敵なんだろう。

人の声を聞いていると気持ちが落ち着く。だからラジオを聴いている。
けれど、電話の声は少しだけ落ち着かない。

耳元の声をゆっくりと聴いていたいのに、話をしなければいけない。会って話す時に笑顔や表情が言葉の一部を担うように、声でのやり取りは声の温度が言葉の意味合いを左右する。淡々と話していたいけれど、そればかりだと気持ちの動きが伝わりにくいし、声に耳を傾けていると、話が疎かになりそうで、気が抜けない。
会って話すのとどちらが緊張するだろう。会うと情報量が格段に増える。表情と声の調子と言葉とを、針に糸を通すような集中力で処理して理解する。
そう考えると、会うより電話の方がまだましかもしれない。

そんなスローテンポな私には、ラジオが心地良い。



最近、気になる人がいる。

その人はあまり配信をしなくて、いつ新しい話が聞けるのかと心待ちにしつつ、たまに古いタイムスタンプの配信を聞き返す。

声を聴いていると、やっぱり、心惹かれる。

早くも遅くもない話し方。抑揚は程よくて、どちらかと言えば声は低いほう。

ちょっと聞いていきなよ、と気軽に呼びかけてくる、垣根のない声が気持ちいい。
友達に会うみたいな自然体で、あのさあって話しかけてくれて、「これって困るよねえ、どうなの?」と素直に悶々としたり、実は照れ屋で、嬉しかった出来事を、軽く口をとがらせながら、とても嬉しそうに話す姿が目に浮かぶ。

可愛い人だ。ハートを鷲掴みにされる。

力みがなくて自然体で、「これって最高じゃん?」なんて話し掛けてくるから、まるで彼女の部屋にお邪魔しているみたいに思えてくる。なんだかとても嬉しくなる声。

この気持ちは、恋にも似ている。

例えば、手の平に乗る程ちいさな仔猫のあどけなさが可愛くて、胸をかきむしるくらい打ち震える時の気持ちや、青空に沸き立つ純白の光輝く入道雲を見上げて、飛べない空への憧れみたいなときめきが止まらない時の気持ちにも似ている。

ラジオを聴きながら、その人の日常の景色を想像する。垣間見る。これから動き出す朝の気配、眠気が漂う深夜の空気、時間の流れは私とあなたで別々なのに、私も一緒にそこにいるか、喫茶店や飲み屋の隣のテーブルに座っているみたいな距離感があって面白い。
こっそりと耳を傾けて、あなたの時間を、ほんの少し、私に見せて貰っているみたいだ。出会ってもいないのに、ちょっとだけ仲良くなれたような、不思議な気持ちになる。

イヤホン越しに、私は「今」を語る声に触れている。ラジオは「今」が目の前を通り過ぎていく瞬間を捕まえていてくれる。

あなたの声に恋をするように、私は今日も、耳を傾ける。


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