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佐世保を経由する / 小値賀島旅行記④

前回の続き。

縦書き原稿

次回に続く。

横書き原稿

 目を覚ました時、窓枠の向こうには、淡い青の世界が広がっていた。列車は、松原駅を通過したくらいで、大村湾周縁の緩やかなカーブを進んでいる。靄のせいなのか、寝ぼけているせいなのか、外の風景は空も山も海も同じ青の色相にぼやけて見える。色の濃淡がそれらの境界を浮かび上がらせていた。おそらく、佐世保までは、まだ小一時間かかるだろう。しばらく景色に見惚れつつ、この「淡い青」をうまく表現する言葉はなんだろうと考えていた。窓近くに座るスーツのおじさんは、膝の上に乗せたパソコンを忙しそうに操作している。

 11:05、佐世保に到着した。高速船の出発時刻は12:05。まだ1時間ほどある。佐世保から小値賀島へは船で1時間半ほどかかるので、ここでお昼を取ることにした。せっかくなので、佐世保グルメを堪能したいところだが、街に繰り出すには時間が足りない。そこで、港近くを見て回ることにした。10分ほど粘ってみたものの、残念ながらピンとくるお店に出会えなかった。仕方なく、ショッピングモールのハンバーガー屋さんで手を打った。正直、モールという立地上、地元の人がオススメするようなお店ではなさそうだな…と残念な気持ちであった。しかし、良い意味で期待を裏切られた。とても美味しかったのである。分厚いベーコンと目玉焼きが食べ応え抜群のスペシャルバーガー。ポテトは、ブラックペッパーが効いていて美味しい。値段も良心的である。偏見を持った自分を、大いに恥じた。

 お腹も満たされたところで、小値賀島へと向かう高速船シークイーンに乗り込む。船は定刻通りに出港した。「海の女神」は、轟音と共に水飛沫をまきあげ、前へ前へと進んでいく。あれほど電車で寝ていたのに、満腹のせいか、出発間も無く眠りに落ちてしまった。だから、船内の記憶はほとんどない。次に目を覚ました時、飛行機の気流がちょっと荒い時くらいに船が揺れていた。相変わらず、女神は島に向かって疾走している。目を瞑っていると、飛行機に乗っているのか、船に乗っているのか、分からない。乗っているのが船で良かった。恐らくもうそろそろ、小値賀島に着く頃だろう。

次回に続く。

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