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島 / 小値賀島旅行記⑤

前回の続き。

縦書き原稿

次回に続く。

横書き原稿

 少し前まで、島にいるときは「島にいる感覚」みたいなものがあると思っていた。しかし、長崎に移り住み、幾つかの離島を巡るようになって、そういう感じがあまりないことに気がついた。手付かずの無人島でもない限り、一度陸地に上がってしまえば、どんな島にも、ある程度見覚えのある風景が広がる。例えば、アスファルトの道路とか、信号機とか、郵便ポストとか。よくよく考えてみれば、日本という「島国」で普段暮らしているときに「自分は今島にいる」と認識しないのと同じことかもしれない。島を島だと認識するのは、大雨や台風などで、外界とのアクセスが切断された時くらいなのだろう。そういうわけで、小値賀島に上陸した時も、島に来た感じはしなかった。

 さっそく、メモ帳を広げて、宿への地図を確認する。地図はもちろん手書きだ。自分では、なかなか良く描けたと思う自信作である。まずは、フェリーターミナルを出て、海岸沿いを西に向かう。「貯水池っぽい何か」と四角く塗りつぶされた地点まで進んだら、右折だ。坂を少し登れば宿に着く。大体十数分くらいだろう。迷ったら迷ったで誰かに聞けば良い。島まで辿り着いてしまえば、もうこっちのものなのだ。

 しばらく歩いていると、道に違和感を感じた。あれ、おかしい。自分は今、歩道を歩いているのか、車道を歩いているのか、どっちだろう。分からなくなった。というのも、道路一面がクリーム色で、かつ歩道と車道の境目がないのだ。気がついた時には、しばらく車道のど真ん中を歩いていたようだった。危ない危ない…道の端っこに寄る。旅があまりに順調に進んでいたため、油断していた。それにしても、この色合いの道路は初めて見た。

 気を取り直して歩いていると、道中には、神社の鳥居や渋い雰囲気の旅館、奥の道にはレトロな街並みが続いているのが目に入った。ちょっと寄っていきたい気持ちを抑えつつ、まずは宿へと向かう。今回の旅は、下調べなしで、2泊3日の予定を何も決めていない。宿についてから、どこに行くか決めるつもりだ。しばらく地図通りに進み、あれ、しまった行きすぎたかな、迷ったかな、と不安になり始めた時分に、宿の看板が見えてきた。

次回に続く。

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