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誰にも届かないかも、くらいのほうがむしろいい。

あれは、昭和から平成に切り替わる頃でした。お昼のテレビ番組の中で関根勤があるスポーツ選手のモノマネをしていたのを、私ははっきりと覚えています。それはジャマイカの「カー」という名前の陸上選手のモノマネでした。

誰も知らないモノマネ。当然ながら、それが本人に似ているかどうか誰にもわからない。

そのテレビ番組は、全日本人が知る国民的なお昼のバラエティ番組で、スタジオにお客さんを入れた公開収録の生放送。
この突然の関根さんの「カー選手のモノマネ」は、その番組の出演者と観客の全員の頭の上にクエスチョンマークを出現させる。

司会者は一言「なんなの?」と言い、それに対して関根さんはこう言いました。

「今日本中で2人くらいが爆笑しています。それでいいんです、これは。」

小学生の私は、この様子を目撃してとても衝撃を受けました。


話は変わって別件ですが、テクノミュージックの神様「Y.M.O」は70年代の終わりに現れ、80年代以降の日本の音楽シーンを変え、世界のPOPミュージックに大きな影響を与えました。細野晴臣は、Y.M.Oデビュー当時の事を語るあるインタビュー番組の中で、こんなことを言っていました(意訳)。

「テクノとかエキゾチック音楽とかの愛好家は、たぶん日本にはほんの数人程度しかいないと思ったから、Y.M.Oみたいな音楽はセールス的には難しい。だけど、マーケットを日本国内だけじゃなくて世界に広げたら、ある程度まとまった人数になる。そういう事もあって、まずは海外でデビューしてロサンゼルスでライブをやった。で、日本に逆輸入という形で聴かれるようになったの。」

私はこれにも衝撃を受けました。

関根さんも細野さんも、マーケットにおけるマジョリティからの支持を獲得しようとせず、マニアックな濃度を保ったままで多くの人に支持される大きな存在になっていった、といえます。

例えば、ここ数年の間でいうと、ジャズミュージシャンの菊地成孔さんがそうです。もう終わっちゃいましたが、TBSラジオで「菊地成孔の粋な夜電波」という番組を2011年から2018年までやってらっしゃいました。この番組な中で菊地さんは「こんなの誰がわかるんだろう」というような結構マニアックな話題を話すことが多かったと思います。私はこの番組のファンで、マニアックなネタも好きでしたが、このラジオは一体どんな人が聞いて喜ぶのだろうか、と思いました。
しかし、番組が始まって間もなく、この番組は全ラジオ局の同時間帯の中でトップの聴取率を獲り、あっという間に大人気番組になりました。

これも、マスにアピールできる場面でマジョリティを獲りに行かずに成功した事例だと思います。これらの場合の成功というのは、熱心で親密なフォロワーの獲得です。


関根さん、細野さん、菊地さん。
彼らが教えてくれることは、「自分はひとりじゃない。どこかに仲間がきっといる」というのを信じよう、という事です。メッセージは届くべきところに届く、届かなくていい所には届かない、という事です。


グーグル検索が当たり前の世の中ですから、ユニークな言葉、ニッチな言葉のほうが見つかりやすいですね。
ということはつまり、その情報がマニアックであればあるほど、独自性が強ければ強いほど、検索では見つかりやすいという事になります。
これまでの時代で、このような事があったでしょうか?
出会えるはずもなかった少数派の人々が、秘密の合言葉をグーグルに入力するのです。そして距離も時間も飛び越えて出会う事ができるのです。素晴らしい。

私は、あるアメリカのアニメーションが好きで、その記事を、こことは別のブログに日本語で書いたことがあります。日本で未公開のアニメでした。日本語でそのアニメについて書かれた記事はいくらググっても出てきませんでしたので、私が書いたのです。その記事を書いた翌週くらいから、毎日毎日たくさんアクセスがあります。検索からのアクセスです。
他にも似たようなことがよくあります。誰も知らないラッパーの事、誰も知らない韓国人ミュージシャンの事、誰も知らない中東の食べ物の事。私はシンプルにこれらが好きで、もっと知りたい調べたいと思ってググったら日本語の記事が全然ヒットしない。という事で、これらを記事に書いたとたんに毎日たくさん検索からアクセスが発生したのです。

いるじゃん、結構いっぱいいるじゃん、同じ趣味の人。

このような事象を、WEBマーケティングの集客ノウハウとして説明する事も可能ではありますが、私はこういう現象を、できればロマンティックな一期一会として噛みしめたいのです。

熱量とこだわりを持って、言葉をインターネットに投げこめば、誰かが必ず反応する時代です。
半端なマーケティングでデザインされた情報よりもむしろ、尖りに尖ったニッチな想いのほうが、共感する人に深く刺さるという事を信じています。信じられる時代と環境がここにあるのです。

「読んでいただいて、ありがとうございます。」


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