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「ハードルを越える」by 為末大

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元陸上選手であり、400Mハードル日本記録保持者の「走る哲学者」為末大による証券アナリスト協会での講演記録をまとめたい。自分は中学・高校と陸上部だったのでその頃から陸上競技選手としての為末大の名前は知っていたが、むしろ近年は元陸上選手としてよりも、経営者・哲学者として有名になりつつあるのではないか。なお、講演自体は2019年と若干昔だが、講演の内容はまったく新鮮味を失っていない。

本講演ではスポーツ選手のセカンドキャリアを取り上げているものの、そこから普遍的な事象を抽出し、サラリーマンにとっても十分応用可能な学びや気付きを提供してくれる。そしてそれこそが、為末氏が哲学者と言われる所以である。スポーツ選手のみならずサラリーマンにとってもそのセカンドキャリア等を考える上で非常に有意義な講演であるので以下、印象に残った箇所をまとめておきたい。


努力について

  • スポーツでもそれ以外でも、重要なことは自分を知ること。スポーツでは金メダルは一つしかない。そのため競争は厳しい。

  • 努力が大事というが、選手は皆努力している。努力だけで差別化はできない。それであれば、大事なことは「得意なこと」「好きなこと」である。

  • 好きなことは、努力を努力と感じない点で優れている。得意なことなら勝てる。好きかどうかは重要だ。だが結局、何らかの特徴があり、その特徴が長所となる環境をうまく選択できるか、がスポーツの世界では重要。

思い込みについて

  • スポーツを始めた時期に「野球がうまいね」と言われるかどうかで、自分の頭にラベリングされ、その影響が後々まで残ると言われている。だから高校球児では4月生まれ方がの1月ー3月よりも多い。

勝利条件について

  • 松井秀喜選手は甲子園で5打席全てフォアボールで歩かされた。それが大ブーイングになった。

  • 勝つことが何より大事なのか、正々堂々と戦うことが大事なのか、我々は高校野球に勝利条件としてどちらを求めているのか。

  • 勝利条件が変わればそれに基づく戦略も変わる。曖昧だと現場は混乱する。条件によって何が正しい行動なのかが変わってくる。

最適化について

  • 野球では、ヒット率を高めるにはとにかくボールを地面に叩きつけろと小学生の時は習う。ところが高校のグラウンドだとその状況は変わる。

  • 小学校時代の野球に最適化しすぎると、大人になったときに勝利の阻害要因となる。

  • スポーツも選手も、現役時代に最適化しすぎると次の環境でうまく行かなくなる。企業文化に染まり過ぎると転職が難しくなる場合と似ている。

  • 最適化しないと勝てないので、やはり最適化は必要。だが、2、3割は余白を残して、新しくやり直すことに備えるのが良いのではないか。

  • スポーツ選手の場合、小中学生の頃は5割の余白を、30代前半までに完全に最適化するやり方が良いと言われている。

  • 人生に当てはめると、40歳ごろまでは5割の最適化、55歳くらいまでが2割を残した最適化、それ以降は完全な最適化が良い。

2種類の目標について

  • 努力目標(メダルを狙う)とリアルな目標(試合に勝つ)がある。努力目標だったはずがリアルな目標になることがある。そうすると、実力と目標との間に乖離が生じ、とても目標に届かないという事態が発生する。

  • するとこの乖離を気合いと根性で埋めようとなる。第二次世界大戦のインパール作戦と同様だ。先に目標が決まり、後でリソースを当てはめたので足りないものが出てくる。不足分を埋めなければならず、それが食料の現地調達方針が定まった理由になっている。

  • 元々無理な目標は、何度も達成できるわけではない。正確な現状分析が不可欠でそこからスタートすることが重要。

失敗とその克服について

  • 「危険は現実だが、恐れは物語である」という言葉がある。

  • 危険から派生された恐れに支配されることはスポーツではよくあるが、何が危険で何が恐れなのかをしっかりと分けて考えたい。

  • 失敗したとき選手は失敗を振り返るが、これには多くの主観が入る。意見と事実が頭の中で混在して記憶されるので、本当に起きたことは何だったのか、よく分からなくなる。

  • 言葉を無自覚に使っていると、自分が過去を振り返る時に勝手に状況を歪めてしまう。歪めた過去から導いた結論は、次の対戦や未来を歪めてしまう。

  • 成功した時、失敗したときほど分析をしない傾向にある。成功要因だと自分が思っていることは、本当に成功要因なのか、それともたまたまやっていただけのことなのか追求すべき。



秩序と混沌について

  • この練習をすれば、このような効果が得られると予測がつき始めることには、成長が止まっている。

  • 混沌は、効率の悪さはあるものの、個人の活性度は高くなる。秩序と混沌のバランスが大切。

  • 競技人生を振り返ると、このようにしてやったら伸びるという成長要因よりも、このようにしてはいけないという阻害要因を排除することの方が重要だった。

  • 対戦相手がいない陸上では大半の失敗は自滅に起因する。自らバイアスに囚われ、モチベーションを失い崩れていく。

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