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【マッチレビュー】2022 J3 第27節 鹿児島ユナイテッドFCvsAC長野パルセイロ

上位の勝負強さ

 10月1日、白波スタジアムで行われた2022 J3 第27節 鹿児島ユナイテッドFCvsAC長野パルセイロの一戦は4-1でホームチームの勝利となった。
 ホームチームの鹿児島は、今季これまで連敗がない状態だったが、前節の鳥取戦の大敗もあり、不安が0ではなかったはず。それでも、上位らしく連敗を回避し、長野に対して4得点を決めて快勝した。前半から攻撃面で違いを見せ、あと一歩のところで得点を奪えずにいたが、スコアを動かしたのはやはりWエースの一角。自身今季11ゴール目となる米澤選手の得点で鹿児島が先行した。後半の立ち上がりから長野にペースを握られ、失点するが、ここは上位陣としての貫禄を見せる。慌てず騒がず、長野の時間が終わるのを待ち、後半記録した3度のシュートを全て得点にして見せた。
 第26節の大敗による影響など一切感じさせず、鹿児島のスタイルを出し切って勝利した一戦となった。サイド攻撃から、セットプレーから、カウンターからと取りたい形全てで得点を重ねられたのではないだろうか。いわきに離されることなく、首位との勝点差4をキープ。J3優勝&J2昇格の可能性を十分に残したといえる。
 一方アウェイチームの長野。前節は9月に入って初めての勝利。今節は上位陣との直接対決で昇格圏内との勝点差を詰めるべく臨んだ一戦。結果だけ見ると非常に残念な点差での敗北となった。前半序盤にいくつかチャンスを作ったものの、決めきれず。その後は基本的に鹿児島のペースを崩すことができずに押し込まれる展開が続いた。何とか水際で耐え、0-0の状態で後半を迎えたかったが、前半終了間際に失点。後半の序盤から盛り返して一時は同点とした。それでも、流れに乗った時間帯で追加点は奪えず。決定機を全てものにした鹿児島に3失点を喫し惨敗。順位の差がそのまま現れる結果になってしまった。
 昇格圏内のチームとの直接対決に敗れ、2位との勝点差は13、首位との勝点差は17にまで開いてしまった。可能性は残されているが、運要素が強く、長野の7連勝は必須だろう。順位表のトップハーフに位置するクラブと4試合(藤枝・松本・今治・愛媛)残されているのが、幸か不幸か。上位との対戦も引き分けではなく勝利で、更に他会場の結果も期待して…ということになった。"昇格"という点では非常に厳しい立場に戻されてしまったが、今一度自分達に矢印を向けて『ORANGEの志』に忠実に戦い抜いてほしい。

スタメン&ベンチメンバー

 ホームの鹿児島は、前節からスタメンを4人変更した。最も変更があったのが最終ライン。CBには怪我(?)から復帰した広瀬キャプテンが入り、左右のSBも木出選手、薩川選手が入った。また、RWGには牛之濱選手が先発起用。五領選手はベンチから出場タイミングを伺うことになった。ファーストチョイスのメンバーが戻りつつある状態で、システムにも大きな変更は無し。上位陣として、自分達のスタイルを貫き、長野を力ずくで退ける姿勢を感じ取ることができる。
 一方、アウェイの長野は前節からスタメンを3人変更した。5-1-3-1→4-2-3-1の可変システムで中核を担っていた水谷が累積警告によって出場停止。ボランチの位置には坪川が起用された。また、可変システムではなく、ベーシックな4-2-3-1の採用であった。RSBには森川を起用。両WGには突破力に特徴のあるデューク&藤森を起用。前回対戦と同様に鹿児島SBの背後を狙うことが予想された。

基本システムの変更

 最近の長野と言えば、5-1-3-1→4-2-3-1の可変システムが特徴であった。しかし、今節はシステムの中核を担う水谷が累積警告によって欠場となった。LWBかつボランチを務め上げられる人材がそんなポンポン湧いてくるだろうか…。そんな不安の中でスタートを迎えたわけだが、最近の長野の代名詞である可変システムは鳴りを潜めた。可変式ではなく、固定式の4-2-3-1でスタートしたのである。前章で示した形で攻守共に行う時間が長かった。意外だった点で言えば、森川がRSBの位置で先発起用されたことである。藤森も佐藤も先発入りしており、直近の流れを見ると、いずれかがRSBの位置に入ることが多かった。しかし、藤森はRWG、佐藤はトップ下として起用された。
 WGにドリブルで剥がせる選手を配置し、トップ下に前からプレスのかけられる選手を配置した。前回対戦で鹿児島のSB裏を執拗に攻め続けた成功体験がこの配置の原点だと推測する。

成功に基づく挑戦

 前半の立ち上がりはお互いにリスクを避けて蹴り合う展開。オープンな展開から、お互いに相手ゴールに迫る場面を作った。蹴り合いになる展開ではロングボールが応酬する分、選手間の距離は遠くなる。背後のスペースを狙いたい長野にとっては理想的な時間帯であった。時間帯の構造を利用してゴールに迫っていったが、試合が落ち着くにつれて、スペースを自分たちのアクションによって空けなければならなくなった。しかし、試合が落ち着いていくと鹿児島の守備に対して有効な攻撃をできなくなっていく時間になった。

 鹿児島は長野のビルドアップに対して、4-2-3-1の形を大きく変えずに対応。有田選手とロメロフランク選手が同ラインに並び、長野のボランチへのパスコースを背中で消していた。2人とも度々背後の坪川・宮阪を気にしている素振りがあり、守備の1stラインの意識としては間違いないだろう。CBに対しては、強い圧をかけることなく、ボランチへのコースを決して対応。SBに出たタイミングでWGがやや圧をかけるような守備を行なっていた。
 序盤と打って変わって相手の守備が整頓された状態で長野は、鹿児島の守備をずらすことに苦戦した。元々ゲームプランとしてズレを作りながら前進することを目指していたのかは不明だが、窮屈に見える場面が散見された。もちろん、DFラインで動かしながら相手の隙を作ろうとしている雰囲気はあった。しかし、水谷の不在も響いてか、いつもより相手の出方を伺うボールの動かし方ができていなかった。
 相手のズレができなかった際、CBから一気に背後に放り込むことを狙っていたように見えるが、CBとWGorCFだけの関係でスピードアップしようとしているように見えた。本当にピッチ上の全員が共通認識を持って攻撃できていたのか。CBという最もプレッシャーに晒されず、時間のあるポジションから余裕のないWGに「よーいどん」で競わせるのは効果的だったのか。相手を動かせないとなったところからの打開策が、最近の試合を通して成長できていないように見えてしまった。

 ただ、宮阪の起点によって状況は若干好転する。宮阪が池ヶ谷と森川の間に降りることで、森川を攻撃的なポジションに押し出す。1人の能力で打開できる4人が最前線に並ぶことで、放り込みに対する迫力は上がった。RSB起用によって持ち味の攻撃力が発揮できなかった森川も、背後に宮阪がいることで一気に攻撃的なシフトを取れるようになったのではないだろうか。藤森とのコンビネーションでサイドを攻略する場面もあった。この試合はWG-SBの各組み合わせを見ても、サイド攻略で優位性を保とうとしたのは間違いない。良い形でミドルサードからアタッキングサードに入ろうかというところでパスがつながらない。スピード感を意識すること=焦りになっているのか、アタッキングサード進入時における精細さを欠いた。

鹿児島の巧みさ

 同じ噛み合わせでありながら前半はなぜあそこまで鹿児島が押し込む展開が続いたのか。それは長野の積極的プレスを外す鹿児島の巧みさがあったからだ。

 鹿児島のビルドアップはオーソドックスな4-2-3-1でのビルドアップ。両SBが深みと幅を担保するポジショニングをする。長野としては、佐藤-山本が縦関係のままプレスをかけることが多く、最前線で相手の前進方向を限定できた場面はあまり多くなかった。

 山本と佐藤で前からプレスをかけていくが、構えた状態からだとどうしても藤森とデュークのラインをCB→SBのパスで越えられてしまう。チームの狙いとして前線からの激しいプレッシングを志向しているように見えたが、この狙いを鹿児島SBにうまくいなされてしまう。度々坪川がプレッシングに参加するような場面も見えたが、前重心になったところを見透かされ、逆サイドにうまく逃げられてしまった。
 前半の守備で気になった点は、「奪いどころを共有できているかどうか」である。前から奪いにいくというコンセプトが与えられていても、あくまでもコンセプトにすぎない。鹿児島のように相手の勢いをいなす技術の高いチームに対して、意図のない前線からのプレスは守備側の背後やハーフスペースを開けているだけで脅威にはならない。全員がなぜハイプレスをしているのか。相手の攻撃をどこで刈り取りたいのか。守備原則の背景を統一していかないと、ただの単騎特攻になってしまい、危険なファウルが増加するだけである。
 特に1失点目につながった坪川のプレスは、非常に後手を踏んでいる状況であり、「前が出ていったから出なきゃ」といったリアクションプレーに見えてしまう。そして、背後のスペースを開けたからには取りきらないと…となるわけだが、その時点でイエローカードを受けている選手がやるべきプレーではなかった。あの時間帯で1人少なくなる可能性もあっただけに、ああいったプレーは気をつけてほしい。そうはいっても、あの状況を作り出したのは坪川1人の責任ではない。チームとしてどこに追い込むのか。逃げられた時にどう撤退するのかをはっきりさせていく必要があるだろう。

ポジティブトランジションの優位性

 今節の長野は、ポジティブトランジションが遅い印象を受けた。ただ、"遅い"という言葉を使ってしまうとどうしてもマイナスなイメージに繋がってしまうが、マイナスな要素だけではない。一長一短の側面を持ち合わせている。

鋭いカウンターが発動できない

 まずは簡単に思いつくであろうマイナス面から言及する。ポジティブトランジションのスピード感で優位性が作り出せないと、カウンターに迫力が生まれない。良い比較対象になる場面が今節の鹿児島の4得点目である。自陣のサイド深い位置でボールを奪うと前方の米澤選手を起点に一気に前進する。ポジションに捉われることなく、相手のゴールに素早く向かうことだけを意識しているようなスプリントがいくつも見られた。その証拠に左サイドからアシストとなるクロスを上げたのはRSBに入る渡邉選手。そのクロスをヘディングで仕留めたのが、LSBに入る薩川選手だった。
 SBの選手がカウンターで最前線まで出てきている事実はもちろんのこと、左右すら拘らずに相手ゴールに迫っていることが伺える。また、クロスが上がる瞬間のDAZNのカメラ視点で長野は大内含めて4人が画角に入っており、鹿児島は5人が画角に入っている。FPに限れば、3vs5の局面であり、圧倒的な数的優位を作り出している。
 こういった事象と比べると、どうしてもカウンター局面においてポジティブトランジションが遅いことはマイナスな要因になってしまう。また、カウンターで関わる人数が少ないほど、パスコースは限られ、相手DFに迷いが生まれづらいため高精度の攻撃が求められることにもつながる。

カウンター返しリスク

 それでは、ポジティブトランジションでスピードを上げないことによるメリットは何なのか。ズバリ、カウンターをカウンターで返されるリスクを回避できることである。
 カウンターの鋭さを強化するためにポジションにとらわれず相手ゴールに向かってスピードアップすることを前項で述べたが、ポジションにとらわれずというところがポイントである。スピードを上げつつも正確性が要求されるのがカウンター。仮にスピードを上げた瞬間に奪われたとしよう。この瞬間に守備に切り替わるわけだが、背後を狙われやすいことに加えて、選手が適材適所にいないことが想定される。具体的には、高さに強みのない選手が中央で長身の選手とマッチアップしたり、俊敏性に強みのない選手がサイドで相手WGに対応したりする可能性があるということだ。
 ポジティブトランジションにおいて、スピードに頼った優位性を作らないことは、守備の第一段階の設計において非常に役立つことなのである。現在ブンデスリーガのバイエルンミュンヘンで指揮を執るユリアン・ナーゲルスマンも似たところを重視している。最も失点のリスクが高まるのはカウンターを仕掛け出した時だと。逆に、相手のカウンター起点に対するプレッシング戦術に落とし込んだりと、世界の最前線でも注目されているメリットなのである。
 

 最小限の幅を用いて、攻撃の組み立てを図る特徴などいくつかシュタルフ監督とナーゲルスマンは志向が重なる点がある。このポジティブトランジションにおける考え方も、彼がチームを観察して導き出した最適解なのかもしれない。いずれにせよ一長一短であり、シームレスなサッカーという競技だからこそ、トランジションの瞬間にチームの色が見て取れる。

獅子の群れになるには…

 攻守に通じて、今節は鹿児島とのコントラストがはっきりしている点があったと考えている。それは、ピッチ上の全員が繋がれているかという点である。繋がりというだけでは薄すぎるかもしれない。イメージの共有ができているかという点が中核になる。
 守備に関しては、前項で述べたとおり。試合前の想定通りに動くことももちろん大事だが、試合が進むにつれてピッチ上の11人としてどこでボールを奪いたいのか擦り合わせなければならない。まだ上位対決が4試合残っており、その試合に勝つ上では間違いなく必要になってくるチーム力の1つだ。  
 一方、攻撃においては、構えた状態の相手に対して、どのような有効なチャンスクリエイトができるかが重要になる。One Teamといってもそれぞれがそれぞれで戦っていては、組織としての強さは表れてこない。スピードアップのタイミングとエリアをピッチ上で共有できるかが非常に重要な鍵だ。より多くの選手がその一瞬におけるイメージを共有できていれば、ある程度の精度の悪さは気にならない。それを補って余りあるほどの強大な力であるからだ(さすがにトンデモミスは回収不能だが…)。
 先週の繰り返しになってしまうが、今一度One Teamを再定義してみてはどうだろうか。本当に全員が全員を意識して戦えているか。105×68の広いピッチの中でボールは1つ、目指すべき場所もそれぞれに1ヶ所。細かいところまで11人で共有して、戦えるチームが本当に強いOne Teamに分類されるのではないか。

まとめ

 前節の9月最終戦で勝利を掴み、10月も勢いのままに連勝スタートにしたかった長野。決して悪い内容ばかりではなかったが、今季のJ3で上位をキープし続ける鹿児島にシーズンダブルを飾ることはできなかった。スコアとしては1-4と完敗したわけだが、この敗戦から学ぶべきものは非常に多かったと感じる。
 スタイルは違えど、両サイドのクロスからの得点、スピーディーなカウンターからシュートまで直結させる攻撃と、真似できるものならすぐ真似したい材料が転がっていた。選手はピッチ上で最も悔しい気持ちを味わったと思うが、悔しいで終わらせずに敗れた相手から吸収できるところは吸収し続けて、成長につなげてほしい。
 勝点差という側面では、相当な奇跡を期待しない限り昇格は厳しくなってしまった。しかし、数字上不可能になるまで挑戦は続く。むしろ、昇格可能性が消えようが、旅路が途切れるわけではない。常に挑戦者として試合に臨み、相手が恐るほどの迫力で勝利をつかもう。

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。


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