【マッチプレビュー】2023 J3 第2節 愛媛FCvsAC長野パルセイロ
2023 J3 第1節振り返り
試合結果
ついに開幕した2023シーズンのJ3リーグ。各会場の試合結果は上記の通り。ホームチーム勝利試合4試合、アウェイチーム勝利試合5試合、ドロー決着1試合という内訳になった。また、入場者数で見ると、トップは鹿児島vsFC大阪の試合。鹿児島の動員数は、今季も素晴らしい数字を記録していきそうである。そして、今治の新ホームスタジアムである「里山スタジアム」のJ初試合ということもあり、今治vs福島の入場者数が2位につけた。
今季のJ3は鳥取の普光院による直接FKが初得点となり、幕を開けた。緒戦である相模原vs鳥取の一戦で、いきなり両チーム合わせて5得点が決まるJ3らしさを見せた。他にも、終了間際の2得点によって、開幕白星を手繰り寄せた鹿児島、新保による1G3Aで大きな点差をつけた岩手など、開幕節から特筆すべきトピックに溢れるスタートになった。
オレンジ決戦に決着を
長野は開幕戦に続いて、第2節もアウェイゲームとなる。対戦相手は愛媛。開幕戦の結果は、非常に対照的な両チームの対戦だ。
愛媛にとっては、開幕スパートを決めたいホーム2連戦の2試合目。第1節のスコアの中では、最も残酷な数字が並んでしまっただけに、まずはホームの地で勝点3を掴み、第3節のアウェイゲームに弾みをつけたいだろう。
長野にとっては、鬼門のアウェイ2連戦2試合目。ホームでできない難しさが大きいが、連勝してホームに戻ることができれば、これ以上ない開幕スパートの成功と言える。
クラブカラーがオレンジである両チームの熱い戦いをプレビューしていく。
マッチプレビュー
通算対戦成績
長野は愛媛に対して、J3通算0勝2分0敗を記録している。Jの舞台で、昨季初顔合わせになったオレンジ決戦だが、2試合通じて決着はつかなかった。
データが昨季のものしかないため、具体的な振り返りは次の項で行う。
昨季対戦の振り返り
前半戦は、長野のホームに愛媛を迎えての一戦。長野は、5月に入り、沼津・松本(天皇杯県決勝)・松本(J3)・岐阜・宮崎と戦った5試合で、0勝2分3敗と確実に勢いを失った時期だった。得点も5試合でわずかに2得点であり、攻撃力に課題の残る中、愛媛とのJ初対戦となった。
愛媛のビルドアップに対して、果敢にプレッシングをかけ、積極的な守備から主導権を握った長野。森川が左サイドから上げたクロスがディフレクションとなり、オウンゴールで先制点を奪う。長野はビルドアップでも水谷が復帰した効果で、スムーズな攻撃を展開した。
しかし、後半に入り、愛媛もビルドアップのオーガナイズを修正。ボランチをCB-SB間に下ろすことで、近藤と小原という強力アタッカーに配球できるようになった。徐々に勢いは愛媛に移り、試合終盤でセットプレーから愛媛が得点。1-1での痛み分けとなった。
後半戦は、長野にとって鹿児島→愛媛のアウェイ2連戦となる勝負の時期に対戦。長野は、直前の鹿児島戦で1-4の大敗を喫した。アウェイ2連戦としては、難しいメンタル状態での戦いになったのではないだろうか。
前半戦と打って変わって、この試合の前半で、先に主導権を握ったのは愛媛。長野の5-3-1-1ブロックに対して、浮いたポジションとなるSBが有効な攻撃参加を何度も見せた。ビルドアップのスムーズさはさすがで、前半のうちに近藤が先制点を奪い、折り返した。
しかし、この試合でも前後半で主導権を握るチームが変わる。後半の立ち上がりで主導権を握ったのは長野。"戦術森川"と言わんばかりに、長野の左サイドから鋭い攻撃を展開。46分、51分に立て続けにゴールを奪い、あっという間に逆転した。しかし、その後は両者共に譲らない時間が続き、迎えた87分。愛媛がCKから同点弾を決め、再びドロー(2-2)決着となった。
長野としても愛媛としても負けてはいないものの、歯がゆい結果が2試合続いた。長野としては、昨季脅威であった近藤が味方となったことは、プラスに捉えられるところだろう。しかし、その反面、昨季の後半戦における対戦で活躍した森川の欠場が濃厚。愛媛の右サイドの守備を瓦解させたドリブラーを欠いての対戦となる。この長野のサイドアタッカーに関わる問題は、この試合で、勝負を分けるポイントになるかもしれない。
前節の振り返り
愛媛としては、この敗戦で4シーズン連続で開幕戦黒星でのスタート。J3リーグは2シーズン目となったが、2シーズン連続黒星スタートとなり、ほろ苦い開幕戦に。
前半立ち上がりにCKから失点を喫すると、その後は徐々にボールを握るようになり、一進一退の攻防に。しかし、23分に新保のスルーパスに抜け出した桐に追加点を決められて0-2。狙いとしている前線からのハイプレスやボール保持によるリズムがないわけではないが、決定的な得点機会を作り出すことはできないまま前半終了となった。
後半も攻撃の手を緩めない岩手が愛媛に牙を剥く。49分にFKのこぼれ球を田代が押し込み、直後の52分には新保のFKに高い打点で宮市が合わせて0-4。64分には、この試合3Aを記録していた新保が、直接FKを叩き込んで0-5。5失点のうち、4失点の起点がセットプレーという課題が明らかになる失点の仕方となった。
谷本が投入されて以降、ビルドアップの円滑性が上がった愛媛。左サイドで細かく繋ぎ、インスイングのクロスに佐藤が合わせて1点を返した。しかし、76分には、得点者の佐藤が負傷交代し、点差だけではなく、アクシデントによる不運も重なった。その後は、お互いにゴール前に迫る攻撃を展開したものの、得点は動かず1-5で決着。
おそらく、岩手のやりたい攻撃が全て理想的に繋がった結果、5得点という大量得点になったのだろう。新保のキックが非常に素晴らしいものだったとはいえ、セットプレーからの4失点は、早急に解決しなくてはならない課題になった。
長野は、J3開幕戦という点で切り取ると愛媛とは対照的。3シーズン続けて、2-0で勝利となった。お互い様子見という時間帯で、長野が最初の決定機を見事に生かして先制した。後方のビルドアップから、スペースを共有し、サイドを深くまで切り込む狙いが実現できた場面だったと思う。前半は、長野がリードを奪ったこともあり、宮崎のビルドアップミスを誘ってショートカウンターで決定機を作り出す場面が多く見られた。
しかし、後半に入ると、宮崎が攻撃方法を前半よりもさらに洗練化。2トップのポストプレーの強さを活かして、ロングボールを活用しながら前進。セカンドボールが拾えない長野は、押し込まれて耐える時間が増えた。しかし、終了間際に一瞬の隙を逃さず、ロングカウンターを三田がきっちりと決めて点差を広げた。
無失点かつ複数得点というこれ以上ない結果を残した試合となった。しかし、長野としても試合内容は、手放しで喜べるものではなく、修正が必要な内容だった。砂森の怪我も含めて、1週間どのようなマネジメントを行ってきたかに注目したい。
予想スタメン
両チーム共に前節のスタメンを軸に予想した。
愛媛は、4-2-3-1の基本システム。GKには、5失点したものの、精神的支柱としてのベテラン徳重を予想。DFラインは、三原・森下・小川・山口を予想。前節はRSBに吉永が入っていたが、攻撃面での貢献は、三原の方が効果的に動けていた。ボランチは、矢田と谷本を予想。前節は深澤と矢田コンビだったが、前を向くタイミングや攻撃の起点になるパスを積極的に差し込める谷本をスタートから起用するのではないだろうか。前線の4人、佐々木・曽田・松田・茂木は前節から変わらないと予想。変更の可能性があるとすれば、佐々木の位置に曽根田だが、昨季も佐々木の得点で調子を取り戻したことを考えると、佐々木を起用するのではないだろうか。
長野は、3-5-1-1の基本システム。GKは矢田貝を予想。前節も積極的な飛び出しや安定したセーブで無失点勝利に貢献した。DFラインは、池ヶ谷・大野・秋山を予想。前節のスタートである、池ヶ谷・秋山・砂森の方が左サイドのビルドアップにおいて、円滑性は見られたが、砂森の負傷も考慮してこの組み合わせを予想。WBは推進力のある船橋・杉井、中盤3人は西村・宮阪・三田、前線に佐藤・進を前節に続いて起用すると予想した。ショートカウンターにおける連動性は、非常に高く、勝利したこともあり大きく変更することはないと思う。
1点気になるのは、近藤の起用法。古巣対戦ということもあり、相当気合が入っていると思うが、前節はメンバーから外れた。怪我でなければ、開幕前の結果も踏まえて、愛媛戦はメンバー入りすることが予想される。もし、メンバーに選ばれれば、彼の起用ポジションに注目したい。
注目ポイント
愛媛と長野は、クラブカラーのオレンジだけではなく、主導権の握り方として志向するスタイルも非常に似ている。具体的には、前線からの積極的なプレッシングと後方からの確実なビルドアップ。
前線からの積極的なプレッシングに関して言えば、愛媛の方がこだわって実行してくるはず。石丸監督体制2年目となるが、開幕戦を見る限り、前線からのプレッシング意識は大きく変更がない。1トップ+トップ下+両SHが、連続してスプリントすることで、相手のDFラインに対して、時間的にも空間的にも余裕を与えない。
一方、プレッシングからのショートカウンターという意味では、長野も取り組んでいる守備であり、開幕節の宮崎戦でも一定の成果を見せた。ただ、ショートカウンターに対する姿勢は、愛媛を"動"とすると、長野は"静"だと捉えている。"追い込み漁"と"食虫植物の捕食"と言い換えても適切かもしれない。ショートカウンターの起点になる奪取ポイントへの誘い方が、若干違うように感じる。
この違いを踏まえると、守備スタイルはもちろんのこと、お互いのビルドアップが、相手の罠にかからずに前進できるかが非常に重要になってくる。愛媛における前節を踏まえたビルドアップの課題は「スピードアップのタイミング」、長野における前節を踏まえたビルドアップの課題は「プレスをいなすまでの我慢」。攻撃面の課題を似たスタイルの相手にどれだけ解決できるかが勝負の分かれ目になるだろう。
まとめ
開幕節の結果は対照的になった両チームの対戦だ。愛媛にとって本当に長野は難しい相手か。長野にとって本当に愛媛は簡単な相手か。開幕戦のスコアに踊らされていないだろうか。愛媛は岩手に1敗したにすぎず、長野は宮崎に1勝したにすぎない。
1/38が終わったが、次は1/37の試合がやってくる。数学とサッカーは別世界のことかもしれないが、1/38と1/37を比べて、どちらが全体における割合が大きいかは明白だろう。開幕戦が重要なのは百も承知。しかし、試合を重ねるごとに重要度が増すという視点ももって臨みたい。
長野は3シーズン連続の開幕戦2-0勝利となったが、過去2シーズンの第2節の結果は1-1。負けていないが、勝てていない。3シーズン連続の好発進とは、この結果を踏襲することだろうか。私は違うと思う。今年のチームは優勝を目指している。J2昇格ではなく、J3優勝だ。意味合いは同じかもしれないが、勝負の世界において1位と2位は明らかに違う。9年間、J3に閉じこもっていた、この厚い厚い殻を破るには、開幕連勝が求められる。長野がJ3参入以降開幕連勝を達成したのは、2017シーズンの一度だけ。チームもサポーターも一体となって歴史を作ろう。
獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。