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【マッチレビュー】2022 J3 第12節 AC長野パルセイロvs愛媛FC

『三度目の正直であり、二度あることは三度ある』

 6月12日、長野Uスタジアムで行われた一戦、AC長野パルセイロvs愛媛FCは1-1のドロー決着となりました。前節はアウェイゲームで敗戦だったため、連敗とならなかったことは良かったのかなと思います。ただ、それ以上にパルセイロ"ファミリー"にとって辛いのは、3試合連続で試合終了間際に失点し勝点を失っているということです。ファミリーとあえて表現したのは、辛いのはサポーターだけでもチームだけでもないからです。ピッチの上で、トレーニングで積み上げているはずのものがなかなか結果につながらないチーム。声援を送れない中、スタジアムに足を運びチームの後押しをしたり、DAZNから勝利の念を送るサポーター。パルセイロの勝利を祈る人々としては、誰も望まない苦しい流れが続いています。
 この3試合の残り数分で逃した勝点は『5』、"たられば"は無意味ですが、この勝点5があれば暫定5位&昇格圏との勝点差4と昇格争い参入予備軍としての位置につけることができていたはずです。合計しても10分足らずの時間で失った勝点5。これからこの勝点5を取り戻すことはできませんが、この3試合で痛いほど思い知らされた「最後まで何が起こるかわからないのがサッカーである」ということ、2点差をつけて試合を進めることでの余裕というところを次節以降1つ1つ達成していくことでジリジリと昇格圏内や首位に迫っていくことができるはずです。そう簡単ではない道のりにはなりますが、シーズン序盤の同点劇や天皇杯県予選準決勝勝利後のチャントを自然発生的に歌う姿を見た私としては、このチームを信じずにはいられません。
 好都合なことに前節終了時点での暫定首位であった鹿児島ユナイテッドFCがFC岐阜に敗れたことで首位との勝点差は10のままで詰められなかった現状もありますが、あれだけ上位3チームの勢いが止まらない状況を考慮すると不幸中の幸いとも言えるのではないでしょうか。
 「二度あることは三度ある」という諺通りの結果になってしまいましたが、「三度目の正直」としてこの試合で見せた変化や成長もあったはず。そんな良い面も改善余地も見えた第12節を振り返っていきましょう。

前半

網をかける守備

 今節のパルセイロのボール奪取ポイントの設定はこれまでの試合と比べると比較的高い位置にされていたかと思います。

 この日の両チームのスタートは上図の通り。パルセイロは今節3バックの前に1アンカーを置く3-3-2-2のシステムを採用し、愛媛FCは最近の試合でよく使っている4-4-2でのスタートとなりました。
 前述したようにパルセイロが設定した相手のボール奪取位置がいつもより高い位置であったことをシステムの噛み合わせと人の配置からも読み取ることができます。ポイントは運動量を求められるIHにボール奪取能力と運動量に優れた森川と佐藤を配置したことです。この2人は今季のパルセイロの攻守両面において欠かせない選手であり、この2選手をボール奪取ポイントに最も近いポジションに配置したことで前半から守備組織が機能していました。

 愛媛FCは2CBとダブルボランチのバランスが大きく崩れない形でビルドアップを試みてきます。この中央の構造はパルセイロの2トップがボランチを背中で消す守備ができれば、実質2vs2の局面を作り出すことができます。更にその先ではボール奪取に強い森川と佐藤が良い距離感でSBに対して待ち構えているため、SBが高さで守備ラインを越えようとするのではなく、幅で回避することを志向する愛媛FCのビルドアップに対しては効果抜群だったと思います。また、IHだけではなく、アンカーに機動力に優れていたり、奪った後の相手DFの矢印を折るパスが出せる住永を据えたこともこの守備の狙いに合致したものであったと感じています。
 特に前半8分頃、佐藤のインターセプトから宮本がシュートまで持ち込んだ場面は最高の奪い方だったと思います。それだけにあの場面は決め切ってほしい…と振り返りながらも再び強く感じてしまいます。

帰ってきた潤滑油

 前半を振り返ってみて、やはりパルセイロにとって大きなアドバンテージとなっていたのはキャプテン水谷の復帰だと感じます。キャプテンを油で例えるのは少しズレているような気がしますが、この選手がいることで1段階も2段階もチームのビルドアップがスムーズになることを証明してくれました。

 序盤は愛媛FCがパルセイロのビルドアップの基盤にあたる3バック+住永の菱形に対して、2トップ+2SHの4枚で前線から奪いにいく守備を実践してきます。局所的ではありますが、4vs4の同数でボールを動かさなければならない状態にもなり、前線の守備での運動量に特長のある愛媛FCはガンガンボールを奪いにボールサイドに人を走らせて圧縮してきます。ここで、鍵になるのがWBにボールを入れた時に何ができるかというところになります。

 3バック+1アンカーの菱形に対してマンツーマン気味でアタックしてくる愛媛FCですが、どうしてもWBに対してのプレスは他の場所に比べると遅くなります。1人ずつが目の前の相手の向かっていく守備と言っても、確実にインターセプトができない距離感にいるのにSBが出ていってしまうと、パルセイロのIHに飛び出された時全てがピンチに直結してしまいます。そうなると、全体のスライドが間に合うまでボールに対してアタックするのが遅れることになります。この時間で有効なプレー選択ができるのが水谷の特長です。秋山や森川とのコンビネーションでサイドの薄い守備を崩すこともできますし、運ぶと見せかけて一度やり直して全体を押し上げることもできます。余程悪い持ち方にならなければ、水谷が失うことはないので周りの選手も二次配置に自信をもって入ることができます。
 こうしてパルセイロの左サイドで取れそうでとれないビルドアップをすることで相手を一方のサイドに誘い込んで、集結してきたところで逆をついて中央→右サイドに展開していくのが攻撃の1つの狙いだったかと推測します。特に10分頃の水谷→佐藤→宮阪→クロスといった流れは得点につながりませんでしたが、宮阪をいつものように中央ではなくサイドに配置した特長が生きる攻撃の形だったのではないでしょうか。
 この攻撃の形において「経由地」と「フィニッシュワーク」を担う2トップと2IHの配置は、中央に人数をかけられる形になっており、最近の試合の中では最も中央での距離感が近く少ないタッチで相手の懐に進入できるコンビネーションの源になっていました。

後半

愛媛FC側の工夫

 後半に入って愛媛FCは、ビルドアップの形を微妙ですが変えたように見えました。

CB-SB間にボランチが下りる
CB間にボランチが下りる

 上図2通りに示したようにボランチのビルドアップへの関わり方が変わりました。前半はパルセイロの2トップの背中に隠れることが多く、なかなかボールを引き出せない状況が多かったですが、ハーフタイムでの交代策も合わせてか、ボランチが積極的に4バックの間に下りるようになりました。
 1枚目の図のようにSB-CB間にボランチが降りた時は、それまでSBが立っていたスペースに降りることでSBをより高い位置に配置することになりました。前半の守備解説をもう一度見ていただければわかると思うのですが、前半は愛媛FCのSBが受けた時点の配置では、選択肢が少なくなり選択する時間も限られています。ここにボランチがクッション役として入ることで、得られるメリットは2つあります。1つ目はより中央で受けられるようになるため、CBからのパスを受けた後の選択肢が増えるということ。2つ目は選択肢が増えて背中で消しきれなくなったパルセイロのIHによるプレスがやや遅くなることです。この結果、前半ではIHによるプレスで相手SBに入った時に全体が連動してボールを奪いきる場面だったのが、なぜか相手の前にボールが転がる場面になる回数が増えました。
 2枚目の図のようにCB間にボランチが下りた時の状況もほとんど同じことです。CBがボランチによって最初の位置よりもサイドに押し出されることでSBが高い位置を取れるようになります。また、CBがパルセイロの2トップに対して角度をもってボールを受けられるようになったので、制限がかかりにくくなりました。このことによって、IHがボールに対して制限はかけているけれど、追いかけているだけでボールを奪うことに直結する役割を担えなくなる場面がありました。
 いずれの場合も5バックに対して局所的ではありますが、5枚の選手を配置することができるようになり、前に出ていくことが躊躇されたり、サイドCBが釣り出された段差を使われたりと前半に比べて前進される場面につながりました。

終了間際のジレンマ

 直近2試合で試合終了間際で失点していることや疲れもあってか、自陣で引っ掛けた状況でも押し上げる動きが減り、後ろに重たくなることで相手の二次攻撃を受ける場面も深い時間になっていくにつれて増えていきました。こういった精神的な要因と配置的な要因が重なったことで、終了が近づく中でも前に出て奪うことができなくなり、失点の原因にもなったCKを与える回数が増えてしまった可能性があります。
 自分の背後を使わせないと同時に前に奪いにいく、これがサッカーの守備におけるジレンマであり、一番難しいところになるので直近の試合の締め方で悔やまれる点が多かった分後手を踏んでしまったかと思います。
 実際の失点の場面でも「ここを凌げば…」ということで複数人でボールにアタックできている反面、全員がボールウォッチャーになりファーサイドは1vs2の数的不利の状態になっています。うまくいかない雰囲気を脱するためには、うまくいっている時よりも「心は熱く、頭は冷静に」が求められてくるのでしょう。

まとめ

 3試合連続で試合終了間際の締め方に疑問が残る結果になってしまいました。その悔しさは外から見ている観客やサポーターよりもチームの中にいる選手やスタッフの方が何倍も大きいでしょう。2試合連続で悔しい思いをした時間帯で気を抜く選手がいるはずもなく、当然のように「今節こそ」と熱い覚悟を持って集中していたはずです。それでも、勝点3を取りきれない状況が現実として起こってしまっています。
 不確定要素の多いサッカーだからこそ、終盤で1点を奪う・守り切るという側面は運によって決まることもあります。愛媛FCのポストに当たったシュートや山中が抜け出してゴールネットを揺らした場面、どちらも得点できなかったのは運のせいと捉えることもできます。だからこそ、今節は第10節・第11節とは違った解決方法が見つかったのではないでしょうか。
 "2点差"。TRMやこれまでのリーグ戦を見ても重要なのは2点差をつけることだと思います。そのチャンスがあったからこそ今節はこれまでの2試合とは違った悔しさがありますし、次節こそパルセイロファミリーが歓喜する瞬間が見られるのではないかと信じています。
 苦しい時こそ"One Team"を体現して一歩先へ、一歩でも強く。

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ


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