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【マッチレビュー】2022 J3 第28節 愛媛FCvsAC長野パルセイロ

互いに一歩及ばず

 10月8日、ニンジニアスタジアムで行われた2022 J3 第28節 愛媛FCvsAC長野パルセイロの一戦は、2-2のドロー決着となった。
 ホームチームの愛媛は、ドローという形で連敗を脱出。勝ちなしという状況に変わりはないが、待望の得点が生まれたことや勝点を1でも積めたことを踏まえると決してマイナスだけではないように思える。また、終盤に同点弾を決めた吉田選手は怪我から復帰戦でのゴールとなった。チームにとっても、個人にとっても非常に意味のある得点を奪えたことは、今後の試合に向けても良い材料になったと考える。
 ただ、勝ちきれていないというのは紛れもない事実である。開幕以来の3連敗は避けたものの、先制したことを考えると、後半立ち上がりのわずかな時間帯で逆転を許したことは非常に痛かった。次節は再びホームゲームとなり、昨季J2組同士の北九州と対戦する。復活した吉田選手を起点に終盤戦で如何に勝点を積めるかに注目だ。
 一方、アウェイチームの長野は、一応今季通して連敗をしない強さは見せた。しかし、一方で、今季を象徴するような勝ちきれない姿になってしまったのも事実。非常に際どい決定機を作りながらも決めきれずに先制を許した。しかし、ハーフタイムで檄が飛び交ったのか、後半立ち上がりの勢いそのままに2点を奪って、わずか6分で逆転に成功する。
 しかし、リードを試合終了まで保つことはできず、セットプレーから失点する結末を迎えた。前回対戦と得点数こそ違えど、勝点の逃し方は非常に近いものになってしまった。昨季、一昨季とチームを代表するストライカーである三田にゴールが生まれたことは良かったが、勝点3という形で最終盤の弾みをつけるには至らなかった。

基本システム&スタメン

 ホームの愛媛は、前節からスタメンを6人変更した。ベテランのGK徳重選手はそのままだが、その前に位置する4バックのメンバーを総入れ替え。この4人での4バックは今季リーグ戦で初めての起用になった。中盤と最前線のメンバーに大きな変更がないだけに、この4バックが機能するかが大きな鍵と言えるだろう。また、攻撃陣は、松田選手(7得点)・小原選手(4得点)・佐々木選手(4得点)・近藤選手(3得点)の最大火力配置を起用。2試合連続の無得点敗戦を受けて、是が非でも得点を取る執念を伺うことができる。
 一方アウェイの長野は、前節からスタメンを3人変更した。累積欠場から戻ってきた水谷を起用し、代名詞の可変システムを採用。2列目の組み合わせも前節のスタートから総入れ替え。三田-山中-森川が並ぶ配置になった。長野は愛媛と異なり、無得点試合が続いているわけではないが、シーズン通して得点力に課題があると言える。まずは先制点、そして複数得点をすることが、勝利の鍵を握っていると言えるだろう。

愛媛のプレス回避

 前回対戦のイメージ同様に愛媛のボール保持はやはり上手だった。特に、ビルドアップでサイドを経由する場面では、ほとんどプレスの網にかからなかったのではないだろうか。

 愛媛の4-2-3-1と長野の5-1-3-1の噛み合わせで浮くポジションはSB。長野のIHがプレスにいけないこともないが、他のポジションに比べるとやや相手との距離がある。そのため、時間が生まれるのはSBにボールが入る時だ。構造上、サイドで長野は数的不利に陥りやすく、小原選手や近藤選手が前を向いて仕掛ける場面が前半では多く見られた。相手の良いところを消して、自分たちのやりたいサッカーをやることができるに越したことはない。ただ、ここまでの愛媛による保持は、ある程度許容していたように思う。もちろん
、山本+2列目でプレスをかける場面も少なくなかったが、プレスの網にかからない場合はしっかり構えたところから守備を開始するようになっていた。下手に追い回して守備組織が崩れることもなく、後手を踏んでラインが押し下げられている様子もなかった。許容範囲内での守備強度だったように思える。
 それでも、前半の主導権を握っていたのは愛媛と言えるだろう。チャンスの質を見れば長野が上回るが、ボールを握りながらクオリティの高い両WGに勝負させるという狙い通りの攻撃ができていた。また、起点は長野のミスだが、前半のうちに先制点を奪うことができたのは大きかった。大きなピンチシーンの直後にひっくり返しての得点だっただけに、前半の流れを握るきっかけになった。

決定機逸の影響

 前半の主導権はやや愛媛にあったと前章で述べたが、失点するまでは五分五分もしくは長野が優勢に思えた。理由は、長野も狙いをもって攻撃し、その狙いが相手の急所を突くような攻撃であったからだ。

 長野は前半から決定的な得点チャンスや有効な攻撃を何度か作り出していた。その攻撃全てに共通しているのが、対角線の長いパス。長野は攻撃時に4-2-3-1に可変してビルドアップするが、それに対する愛媛のブロックは4-2-3-1気味。前線の2人が縦関係になることで、長野ボランチのプレーエリアを制限する狙いがあったように見えた。しかし、ボランチのプレーエリアを制限する分、その外側に立つCBへのプレッシングはやや遅れる。その時間で池ヶ谷や秋山、時にはサリーダした宮阪が対角線に正確なロングフィードを供給する。
 愛媛の両WGも質で勝負できる選手だが、長野の森川と三田も十分に個人で勝負できる選手だ。サイドで優位性を保ち、SBも攻撃参加することで質の高いサイド攻撃を繰り出せていた。また、クロスを上げることが目的にならず、中央にも人数をかけて攻撃できていたのも良かった点だ。
 ただ、得点を取れなかったのが本当に大きかった。特に、山本に訪れた2度の決定機。18:50頃の森川の粘りからのこぼれ球に反応した場面、21:00頃の山中のショートカウンターからの決定機の場面。いずれかが入っていたら…サッカーにたらればはないが、やはり自分達の時間帯で決定機を決め切る重要性を感じることになった。

痛い負傷退場

 前半終了間際に秋山が負傷し、交代を余儀なくされた。夏の移籍期間が過ぎ、フリーで乾をようやく獲得してベンチにもCBを置くことができるようになったパルセイロ。ここにきて秋山が負傷してしまうのは、終盤に向けて大きな痛手だと言える。
 スライディングが足首に直撃したわけではなく、回避した後の着地で右足の外足側を痛めたように見えた。確実な接触で痛めたわけではないこともあり、長引きそうな嫌な負傷の仕方であった。
 そして、敷田が相当なスピードでフィッティングを見せない限り、再びベンチにはDFがいないという状況が予想される。藤枝・松本・今治との上位対戦を残しており、昇格の可能性が低いと言っても来季以降に向けてプラス材料を可能な限り多く残しておきたいのが現状。池ヶ谷と乾も年齢的に怪我に強いかと言われると微妙なところ。それでも、秋山が離脱した場合はこの2人を酷使するしかなくなる。シュタルフ監督の選択肢が狭まることはもちろん痛手だが、酷使し続けるしかなくなることで怪我人増加という負のスパイラルに飲み込まれないかが心配だ。
 クラブからのリリースはないので、秋山がケロッと相模原戦で元気な姿を見せてくれるかもしれない。ただ、プレー続行ができないほどだったので難しい可能性が高い。J1・J2のシーズンが先に終わり、移籍市場も動き出すことから終盤までOne Teamで戦い抜き、怪我なく終えることが重要だろう。

戦術森川

 以前の川崎フロンターレや現在の日本代表に"戦術三笘"が存在するように、長野には森川がいる。そう言わんばかりの活躍を見せた。
 後半開始早々、試合がまだ落ち着かない時間帯でロングボールのこぼれに反応。対面する三原選手を揺さぶり、完全に抜き切る前に中央へクロスを供給。動き出しで相手のマークを外した三田が頭で合わせて同点とした。まさに三田尚希。そんなゴールをお膳立てした森川であった。
 三田は、左サイドの起点から仕留める形を2020・2021シーズンでも得意としていたが、今季は得点が取れていなかった。個人のフィットネスの不調などもあるかもしれないが、彼が輝くクロスは今回のような早くて鋭いクロス。昨季で言えば、杉井にとって嫌な思い出であろうホーム鳥取戦の先制点のような形だ。一瞬でマーカーから外れ、ボールの落下地点に入るという忍者のような特性をもった三田を生かせるクロスがようやく上がった。
 その後の追加点も、その後の決定機も基本的に森川の突破から作られた。前半から相手SBの背後や脇のスペースを使おうとする意図は感じたが、後半になって一層強化されたように思う。愛媛の攻撃を受け止め、攻撃に転じた時のファーストチョイスは森川。そして、この日の森川はボールフィーリング、芝との相性共に最高だったように感じる。最近の試合であれば、仕掛ける中でボールを置き去りにするような場面もあったが、今節では皆無。十分に三原選手を苦しめた。
 十分な効力を発揮した"戦術森川"(同系統の戦術デュークもあるが…)、日本代表が陥ったことのある事象から、今後の可能性を考える必要がある。まずは、この個人戦術には限界があるということ。いくら調子の良い森川と言っても、10/10でJ3のDFを剥がせるわけではないし、チャレンジ&カバーが整備された状況ではさらに難しくなる。相手が警戒する可能性の高い森川のサイドをグループでどう打開していくかが今後の鍵になってくるだろう。幸いにも、長野にはさらに外側を回れる杉井、中央でリズムを作れる山中、正確なサイドチェンジを展開できる宮阪というように、絡ませると面白そうなスペシャリストは非常に多い。
 今季は残り6試合となったが、選手の特徴がピッチ上で噛み合い、見ている人も選手も楽しいと思えるサッカーを展開してほしい。少なくとも、今節の後半はその点において及第点をつけられる内容だったと思う。

終盤の失点

 この後半の内容で勝点3を取れない状況に対しては、本当に運が悪いと思わざるを得ない。ほとんどの時間を長野が主導権を握り、攻め続けていたと思うが、カウンターから与えたCKで同点に追いつかれてしまった。
 運がないのか、勝負弱いのか。正直後半の戦い方に勝ち点を失う原因はなかったと感じている。強いて言うならば、前半の決定機逸が痛かったと感じる程度。逆転に成功した後もトーンダウンした印象はなく、戦う気持ちを全面に押し出してゴールを目指せていたと思う。
 選手としても目前に迫っていた勝点を2つも逃した嫌な気分だろうし、監督としても修正に困るような勝点の失い方だったのではないだろうか。運も実力のうちで乗り越えなくてはいけない要素。しかし、改めて不確定要素の多いサッカーで、勝点3を積み上げる難しさを感じた試合終盤だった。

まとめ

 細かな意思疎通のミスや連携面での齟齬は練習でも修正して、相模原戦に臨むだろう。ただ、今節で失った勝点2を過剰に受け止める必要はないと感じる。相手を褒めるべきで、失点場面にフォーカスしてもなかなか解決策は見つかってこない。試合の締め方を気にしなくてはならないことは当然だが、それ以上に前半で勝負を決めるくらいの気概を見せてほしいと思う。
 そして、2022シーズンも残り6試合となり、シーズンの終わりが見えてきた。J3は上位カテゴリーに比べて終了するのがやや遅い。その分シーズンを長く楽しむことができるのが救いである。ただ、昇格争いというところを見ると非常に厳しい状況である。暫定2位の鹿児島との勝点差は15、残り6試合で積み上げられる勝点は18。多くを語る必要はない。第29節が終わった時に勝点差が16以上開いていたら、ゲームオーバーだ。上位の勢いを考えると、長野の勝利以外=昇格可能性消滅となるだろう。0.0001%でも可能性を残すために、勝利が必要になる。
 この非常に厳しい状況でUスタに声援が帰ってくる。ピッチの外もOne Teamとなって、相模原に勝利しよう。決して簡単な試合にはならない。Uスタの雰囲気で選手を後押しし、相手をスタートから飲み込もう。

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。

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