インタビューの撮り方【映像制作のコツ・撮影】

メディアで発信する記事やコンテンツの制作において、人に話を聞く「インタビュー」は、取材の根幹をなす大変重要な作業です。
インタビューは、新聞記者も雑誌やWEBのライターも当然するわけですが、そうした活字メディアのインタビューと映像メディアのインタビューは、求められるスキルやノウハウが少し異なります。
今回は、ドキュメンタリーなど映像コンテンツを制作する中での「インタビュー」のコツについて紹介します。

➀映像メディアのインタビューの特徴


 ドキュメンタリーなど映像コンテンツ制作における「インタビュー」が、活字媒体のインタビューと決定的に異なるのは、「カメラの前で喋ってもらう」という点です。
 つまり、話した内容や情報だけでなく、映像や音が重要な要素になります。
 具体的には、話している人の顔の表情や手の動き、声の調子やイントネーション、さらに言葉と言葉の間<ま>なども、インタビューを取る時に留意すべき点です。
 特にその人の人物像に迫るドキュメンタリーなどのインタビューでは、言語で表される情報以上に、話す瞬間の表情や声の調子が重要になります。
その人の素顔をさらけ出していたり、真に迫った表情や声で撮れたインタビューは、その人物を魅力的に見せたり、言葉に説得力を持たせたりします。
 また「カメラの前で喋ってもらう」ということは、取材相手にとって平常心を保つことが難しいということを頭に置いてインタビューに臨まなくてはいけません。
 目の前でカメラが回っている、というのは、それ自体が特殊な環境になるわけで、人によって程度の差こそあれ、緊張を伴うものなのです。
 その環境の下で、なるべく自然な素の表情で撮るためには、聞く際の特殊なコツが必要になります。


②メラビアンの法則


 映像と音で撮るということがどういう意味を持つのか、それを考えるために「メラビアンの法則」をご紹介しましょう。
 メラビアンの法則は、誰かが話しているのを聞いて、聞き手が話し手の感情の動きを何で捉え判断しているか、について研究したものです。
 メラビアンは、判断の材料を、➀言語情報、②聴覚情報、③視覚情報、の3つに分けて調べました。すると、聞き手の判断に与える影響の度合いは、➀言語情報8%、②聴覚情報38%、③視覚情報55%、という結果になりました。
 例えば、何かミスをした時に、怒ったような表情で「まあ仕方ないね」と言われても、本気で許してもらえたとは思えません。逆に、笑いながら明るい声で「そんなことしちゃダメじゃないか」と言われると、相手は自分のミスをあまり気にしていないな、と判断するでしょう。
 このように、映像や音声とともに伝わる言葉というのは、言語から伝わる情報以上に、顔の表情などの視覚情報や声の調子などの聴覚情報が重要になります。
 つまり映像でインタビューを撮る時には、5W1Hの情報を確実に取れば良いのではなく、それに加えてどのような表情と声で話してもらえるかが、勝負になるのです。

③勝負質問は中盤で~最初は緊張を和らげるために~


 カメラの前で話すのは、緊張を伴うものだと述べましたね。
 その緊張が映像の撮れ高に良い影響を与えるのであれば、それでも構いませんが、多くの場合、緊張が、話し手の表情をこわばらせ、本音や素の表情が撮れない原因になることが大多数です。
 特に人物の内面に迫るようなドキュメンタリーの場合、どうやって緊張を和らげるかが、一つの大きなインタビューテクニックとなります。 

 まずは、一番聞きたい質問は、インタビューできる時間の中盤に持ってくるようにします。

 最初は誰しも緊張しています。ある程度、差し障りのない質問を繰り返し、話し手にカメラの前で話すことに慣れてもらいます。いわば「アイスブレイキング」の質問タイムです。

 このアイスブレイキングがどれくらい必要かは、人によって異なります。カメラ慣れしている芸人などには、アイスブレイキングは必要ありません。また一般人でも、カメラ慣れしている人としていない人、カメラ慣れしていなくてもすぐに馴染む人とそうでない人がいます。
それは、アイスブレイキングの質問をぶつけながら、間合いを見計らう必要があります。そろそろ緊張がほぐれてきたな、と思うところで本題の質問をするのです。

 また本当に聞きたい質問は、時間が許せば、インタビューの中で言葉を変えながら2度3度繰り返すのも良いでしょう。1回目の質問時には、うまくまとまらなかったものが、同じような質問が出てくると、うまくまとまることがあります。

 アイスブレイキングの上級テクニックは、カメラが回る前から雑談を始めることです。
 聞き手(一般には記者やディレクター)は、話し手の目線がなるべく正面近くになるように、カメラレンズの近くに陣取ります。その上で、カメラマンや照明・音声がセッティングをしたり調整をしたりしている最中から、相手に雑談を持ちかけるのです。
 この時、本題を聞いてしまってはいけません。その周辺のどうでも良い話を持ちかけて、カメラの前で話すことに慣れてもらいます。
 そのうちに、セッティングが完了しても、雑談を続けます。話し手に気づかれないようにカメラマンに合図を送り、カメラを回してもらいます。そしてそのまま雑談から本題に入っていきます。
 すると話し手は、カメラが回っていると意識しないまま、自然に雑談を続けるかのように本題の質問にも答えるのです。

 これは事前にカメラマンともやり方を共有しておき、あうんの呼吸で進めなくてはならないので、高度な撮り方ですが、素の表情を撮りたいドキュメンタリーなどでのインタビュー撮影では、有効な方法です。

④その人でなければ話せないことを話してもらう


 それではいよいよインタビューの内容の部分、すなわち「何を聞くか」について考えていきましょう。
 インタビューで何を聞くべきかは、どんなタイプのコンテンツで、取材対象がどのような立場としてそのコンテンツの中に位置づけられるか、によって異なります。

 大きく分ければ、➀「情報・証言型」の質問と、②「心情吐露型」の質問があります。

➀は、ニュースや社会派ドキュメンタリーなどで、ある立場を背負って話してもらう時の質問です。例えば、企業の社長や担当者、あるいはある事象に対する研究者・専門家、などです。ナレーションで伝えても済むような事実や情報の中でも、「この立場の人が話すから重みがある」「この立場の人が証言することに意味がある」というようなインタビューです。
 例えば、ある企業が来年には事業から撤退する可能性がある、という情報があるとします。これをナレーションで「Å社が来年事業から撤退する可能性があります」と語るのに比べ、社長自らが「わが社はこの事業から来年には撤退せざるを得ないかもしれません」と話すのとでは、信ぴょう性や重みが異なるわけです。

 一方、主人公の人間像を描く人物ドキュメンタリーの場合は、数字や事実などの情報はナレーションに任せ、インタビューではその人物自身の意見・主張・感想、また喜怒哀楽などその人物でしか話せない内容やその人物の思いを吐露する感情的な部分を主に使います。
撮り方としては、先に述べたようにインタビューの冒頭から真の感情が出ることはあまり望めないので、ナレーションの素材にするつもりで客観的な事実をまず聞いておき、感情が温まったところで、思いを聞くのが良い撮れ高につながるでしょう。
 いずれにしても、インタビューで必ず必要なのは、
「その人でなければ言えないこと」
「その人が言うから価値のあること」
「ナレーションでは表現しにくいこと」
などです。

➄YESかNOでは答えられない質問をする


 活字媒体のインタビューでは、例えば次のようなインタビューを取っても記事は書けます。
記者「社長、来年度の売上予測が今年度の20%ダウンと聞きましたが、それは本当ですか」
社長「その通りです」
これで、事実を確認したわけですから「来期売上予測20%ダウン」と書けるわけです。

 ところが、映像インタビューでは、この撮り方では社長は「その通りです」としか言っていません。記者の質問を使えば意味は通りますが、いかにも誘導尋問に聞こえてしまいます。
映像インタビューでは、相手が「はい」「いいえ」だけで答えられる質問は、うまい質問とは言えません。
「試合に勝ったのは、8回のショートの守備が決め手でしたよね」
「昨日見た朝日に輝く富士山は本当にきれいでしたね」
「御社の商品の魅力は何と言っても材質の良さにあるのではないですか」
このような質問は、「はい」「いいえ」で終わってしまう可能性があります。往々にして、「こんなことを言ってほしい」という理想の回答のイメージを持ちすぎていると、それを聞き手自身が質問の中で言ってしまいがちです。
 上記のような質問は、次のように聞きます。
「勝因はどこにあったと思いますか」
「昨日の富士山の印象はどうでしたか」
「御社の商品の魅力はどこにありますか」

 英語にすると、Is it~やDo you~といった文ではなく、What~、Where~、How~、Whyなどで始まる質問をすると良いでしょう。いわゆる5W1Hを聞けば良いのです。

⑥頭の中で編集しながら聞く


 インタビューの相手によっては、短い端的な言葉で分かりやすく話してくれない人もいます。むしろそういう人の方が大多数と言っても過言ではないでしょう。
そうした場合は、頭の中で相手の言葉を編集しながら聞く必要があります。

 例えば、次のようなQAがあったとしましょう。

聞き手「○○先生は、他の国と比べて相対的に日本人の英語力が低いことについて、何が原因だと思いますか」
〇○先生「それはとても難しい問題だと思いますね。突き詰めて言えば、日本人の国民性が大きいと、私は思っています。本来、言語の学習は色々な失敗を重ねて覚えていくことが必要なんですね。何をするにしてもそうでしょう。料理にしても、スポーツにしてもそうですよね。何度か失敗して少しずつ修正して身につけていくわけです。それは言語学習も同じなんですよ。ところが日本人は恥を恐れる国民性を持っています。そう思いませんか。何かこう、自分の意見を出す、ということがあまりよろしくないことだと思っている。あるいは自分が言ったことが間違っていたり通じなかったりすると、すごく恥ずかしいことだ、と感じてしまうんですね。つまり失敗を恐れるあまり、完璧に話せるようになるまで使おうとしない傾向があるということです。もちろん学習カリキュラムの問題もあると思いますよ。文法偏重で、話させることよりも一言一句間違えずに作文することを重視する英語教育は、以前から実用的な英語力を身につけるのに効果的でないと指摘されています。しかし仮にこれが改善されたとしても、人前で話すこと、コミュニケーションをとること自体に恥じらいがあると、失敗を重ねる経験がなかなかできないんですね。これが英語学習の阻害要因になっているんだと思いますね。」

 番組やコンテンツの尺によっては、このインタビューをまるまる使うと長すぎる、というケースもあるでしょう。もっとコンパクトに言ってほしい、と。もちろん現場で何度も聞き直して、コンパクトに言ってもらうまで粘る手もあります。が、あまり何度も何度も同じ質問を繰り返すのも、相手に失礼になるでしょう。
 こうした場合、使える箇所を頭の中で編集し、コンパクトにまとめることができるかを計算しながら聞いていきます。例えば、上記の長いインタビューは、次のように編集することが可能です。
「本来、言語の学習は色々な失敗を重ねて覚えていくことが必要なんですね。ところが日本人は恥を恐れる国民性を持っています。つまり失敗を恐れるあまり、完璧に話せるようになるまで使おうとしない傾向があるということです。これが英語学習の阻害要因になっているんだと思いますね。」
 これなら、相手の言った趣旨を曲げずに、コンパクトにまとめることができます。
もしこのような編集が難しいと判断したら、少し聞き方や角度を変えてもう一度質問をぶつけるようにします。

⑦キーワードを引き出す魔法の質問


 それでもなかなかコンパクトにキーワードを出してくれない人もしばしばいます。そういう人から、編集で使いやすい短いキーフレーズを導き出す魔法の言葉があります。

それは、「ひとことで言うと・・・」というひとことです。

「ひとことで言うと、〇○さんが一番大切にしている信条は何ですか」
「ひとことで言うと、マスメディアにとって今後の課題は何だと思いますか」
「ひとことで言うと、日本人の特質はどのような点にあると思いますか」
こうした核心に迫ったり、本質を突いたりするような質問について、「ひとことで言うと」がないと、話し手は言葉を尽くして様々なことを説明しようとします。
「今後の課題といえば、一つには・・・・・・がありますが、もう一つ考えられるのは・・・・・・ということで、さらに言えば・・・・・・という点も大きな課題だと思います。」
 といった具合です。尺が許せば、じっくり様々な論点から聞く、という場合もありますが、短くまとめたい時には、この回答だと使いにくくなります。
 そこで魔法の言葉「ひとことで言うと」を冒頭につけて聞きます。そうすると、話し手は、
「ひとことですか。難しいですねえ」と言いながら、何か一つに絞るとどの点になるか、それをひとことで言い表すにはどんな言葉を使えばよいか、と考え始めます。
その後に「ひとことで言えば、○○○○ということですね」というフレーズが出てくれば、万事OKというわけです。

 もちろん100%これで成功するとは言えませんが、このひとことをつけた質問は、かなり高い確率で、「コンパクトで核心をついたひとこと」が撮れるものです。
 この魔法ワードは、一回のインタビューの中で、そう何回もは使えません。質問のたびに「ひとことで言えば」と言われると、相手もムッとしてしまうでしょう。
 そこで、この魔法ワードは、ある程度質問を重ねた上で、最後に「なるほど色々な考え方があるわけですね。ところで、ひとことで言えば・・・・・・」といった形で使うのがお勧めです。

⑧「ありがとうございました」の後が勝負 


さて、人物ドキュメンタリーなどのインタビューで、主人公の、公式な場では見せない素の表情や、立場上言いにくい本音の言葉を引き出すための、もう一つのテクニックがあります。それは「ありがとうございました」の後に勝負をかける、ということです。
 一通りインタビューを終えて、「ありがとうございました」とお礼を述べた後に、おもむろに「そういえば〇○についてなんですけどね……」「ところで、○○っておっしゃていましたけど」などと、公式の質問ではない口調で聞いてみるのです。
 相手は、いったんインタビューは終わったと思って、緊張を解いています。そんな時にこそ「ここだけの話」をしてくれることがあります。

 この手法は、カメラマンとのあうんの呼吸、もしくは事前の打ち合わせが必要です。ありがとうございましたと言った瞬間に、録画を終えてしまっていては、せっかく引き出した本音も水泡に帰します。
 しかしそのあうんの呼吸がうまくいけば、特に主人公の人間性を引き出すドキュメンタリーのインタビューなどでは、「ありがとうございました」の後のやりとりこそ、最も良い話や表情が撮れることが多いものです。

まとめ

映像メディアにおけるインタビューは、活字メディアと異なり、事実の確認だけでなく、取材相手のその瞬間の表情や声をどれくらい生き生きと取るかが重要なファクターになってきます。

そんな映像インタビューのコツは次の通りです。

▼勝負質問は中盤で
▼その人でなければ話せないことを話してもらう
▼YESかNOでは答えられない質問をする
▼頭の中で編集しながら聞く
▼キーワードを引き出す魔法の質問「ひとことで言うと・・・」
▼「ありがとうございました」の後が勝負

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