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SNSはマスメディアの一つと言えるのか?

学生たちとこのテーマで議論をしました。
マスメディアの定義は、文字通りに考えれば「マス(大衆・不特定多数の人々)」に向けて情報を伝達する「メディア(媒体)」ということになります。
これまでは、新聞・テレビ・ラジオ・雑誌などがマスメディアの代表格とされてきました。
その他の出版物や映画、CDなどもマスメディアと言えるでしょう。

ここに近年、インターネット、さらにSNSという新しい媒体が加わりました。
しかも利用者が急増して、今では数で他のメディアを凌駕するに至っています。
インターネット上のホームページなどは、その役割や目的、伝達方法などから考えて、マスメディアに分類して何の違和感もありません。
一方、よりパーソナルな伝達手段であるSNSはどうでしょうか。
「SNSも他のメディアと同じく『マスメディア』である」と言えるか。
このテーゼについて議論したわけです。

本来パーソナルな通信ツールであったはずのSNSも、その機能が進化し、広く情報を伝達する手段(いわゆるソーシャルネットワーク)として使うことが増えてきたため、マスに向けたメディアという性格も持ち合わせるようになりました。
TwitterやFacebookを使って、企業宣伝を行う例などです。
つまり、一つのツールがかつての電話と同じようなパーソナル通信としても、新聞やテレビによく似た役割を果たすマスメディアとしても使えるようになってきているのです。
見方を変えれば、「マスメディア」の定義そのものが変化しつつあると言ってもよいでしょう。

学生たちの中には、情報の信頼性による定義分けを試みる人もいました。
SNSは個人的なものだから情報に信頼性がない。
一方、取材に裏打ちされた信頼性のあるものを発信するのが、マスメディアであると。
それも一つの考え方としてはあり得るでしょう。
しかし同一人格で、同質の情報を、異なるメディアで発信する場合はどうでしょうか。
例えば、プロの新聞記者が、仕事とは別に自力で何かを取材し、SNSに上げたら、その情報には新聞記事に近い信頼性が期待できるでしょう。
その場合は、SNSもマスメディア?
ん?記事の質によって、SNSはマスメディアになったり、ならなかったりする?
ちょっと違う気もします。

SNSという複雑な機能を持つメディアがマスメディアと言えるかどうか、という問いに答えを出すこと自体には、あまり大きな意味はありません。

ただ、SNSを使ってマスに向けて発信される情報と、旧来のマスメディアが発信する情報とでは、情報の信頼性について一つの大きな違いがあります。

それは、「編集・編成」機能があるかないか、です。
新聞や雑誌の紙面の全体を見渡して、どの記事をどれくらいのボリュームで発信するかを決める「編集」。
テレビやラジオの放送時間全体を見渡して、どの番組をどの時間帯に配置するかを決める「編成」。
これらの機能がSNSにはありません。

これは適正な情報の伝わり方を考える上で、大きな違いです。
仮に一つ一つの記事がすべて取材に裏付けされた正しいものであったとしても、ある一定方向の視点から見た記事ばかりが発信されていたら、受信者(ユーザー・読者・視聴者)は、その視点でしかモノを見ることができなくなります。
編集や編成の機能は、そのバランスを、紙面やチャンネル全体で取ろうとする機能です。
SNSには、そのバランスを取る機能はありません。
そのため、あるプラットフォーム上で興味本位で発信された一つの記事が、リツイートされ、追従記事が書かれ、そのプラットフォーム上の一方的かつ支配的な意見に育ってしまう可能性があるわけです。
かつてFacebookへの書き込みが起爆剤となって「アラブの春」と呼ばれる革命が起きたのも、そうしたSNSの特徴を表しています。

アラブの春の是非はさておくとして、一般的に、一つ一つの情報が正しくても、一方の視点の情報しか受け取らず、その視点からしか物事を見ない国民による選択は、非常に危険だと思います。
健全な民主主義の発達のためには、国民一人一人が正しい情報をバランスよく受け取ることが大切です。
これが、マスメディアとは何か、を考える上で、重要な視点なのではないでしょうか。










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