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感動の映像を生み出す四つの型

映像を制作・発信することの、大きな目的のひとつは、見る人に感動や共感を与えることでしょう。
私は、これまで多数の歴史番組やドキュメンタリー番組、またアニメ「リトル・チャロ」シリーズなどの制作を通して、人に感動を与えるコンテンツ作りを追求してきました。
その経験から、映像作品で「感動」を生み出す仕組みや手法について、幾つかの分析を試みたいと思います。
今回は、感動が生まれるポイントを、4つのタイプに分けて分析します。
感動的な映像作品は数多くありますが、どのような点が見る者の心を揺さぶるのかは、作品の種類によって異なります。
ここでは大きく四つの類型に分けて、それぞれの特徴を分析します。


スポーツ中継型


WBCやW杯サッカーなどの試合の中継は、多くの日本人の目を釘づけにし、涙を誘いました。
スポーツはよく「筋書きのないドラマ」と言われます。
選手たちが闘志を燃やして懸命に闘う姿、ドラマチックな試合展開、勝者の歓喜と敗者の涙。
こうしたスポーツの要素は、そのまま味わうだけでも感動に値します。
このように、そもそも感動的な事象を映し出す映像コンテンツを「スポーツ中継型」と名付けます。
このタイプの映像は、素材そのものに感動の要素が十分にあるわけですから、基本的な映像制作のスタンスは「素材の持つ感動の要素を消さずに映像化する」ことになります。

しかし、試合そのものをそのまま映すだけで「感動」に達するかというと、そうとも言えません。
試合を会場で観戦する以上にドラマチックに「見せる」ために、様々な情報を打ち込むわけです。
例えば、打席に立つ選手の「怪我から立ち直るまでの努力の逸話」、駅伝でタスキをつなぐランナーの「出場が叶わなかった仲間への思い」といったことです。
試合を見ているだけでは知り得ない、選手や関係者の背景を知ることで、一つ一つのプレーがより思いのこもったものに見えてくるのです。
当然こうした情報を打ち込むには、取材が必要です。
こうした背景情報が、「スポーツ中継型」の感動をより強くする肝となります。

ドラマ・アニメ型

スポーツ中継型と対極にあるのが、「ドラマ・アニメ型」の映像コンテンツです。
このタイプは、もともと感動的な事実や出来事などの要素があるところからスタートする訳ではありません。
感動を生むためには、企画や脚本はもちろんのこと、1カットごと1セリフごとの全てに「制作者の意図」を注入しなくてはなりません。
別の記事で詳しく解説しますが、このタイプの感動には、幾つかの型があります。
人間の心が動かされるパターンを知っておけば、「感動」は人工的に生み出せます。


この型は、多くの場合、脚本(ストーリー)が感動の最大の源泉になります。
一方で、いくら脚本が良くても、演出や演技、編集や音づけなど他の工程の技術が追いついていなければ、感動は半減してしまいます。
脚本に書かれた物語やセリフが感動的であることはもちろん、それを生かす俳優の表情や語調、カメラアングル、ライティング、編集のちょっとした間の取り方や音響効果など、幾つもの工程で、緻密な計算と洗練された技が必要になります。
そう考えると、「ドラマ・アニメ型」は、もともと感動的な素材を映し出すスポーツ中継型に比べると、感動を生むための労力が余計にかかり、難易度が高いようにも見えます。
が、そうとも言い切れません。
ドラマ・アニメ型は、スポーツ中継型よりも感動を生みやすい側面もあります。
それは「技が良ければ必ず感動させられる」という点です。
スポーツの感動は、素材すなわち試合そのものに負うところが大きいので、白けた試合を制作サイドでいかに頑張っても感動を生み出すことが難しい場合があります。
その点、ドラマやアニメは、制作サイドで脚本から細かな演出に至るまで、綿密に設計して労力をかければ、感動を確実に生み出せるという点が魅力でもあります。


ドキュメンタリー型


スポーツ中継型とドラマ・アニメ型の中間に位置するのが、「ドキュメンタリー型」と「結婚式ビデオ型」です。
演出に負うところが大きい「ドラマ・アニメ型」に近いのが「ドキュメンタリー型」、一方素材を生かす「スポーツ中継型」に近いのが「結婚式ビデオ型」になります。

まずはドキュメンタリー型を考えてみましょう。
ドキュメンタリーは、スポーツ中継がそうであるように、ある人物や事象をありのままに描くものと考えている視聴者が多いのですが、そうではありません。
もちろん、一からフィクションとして作り上げていくドラマと異なり、ドキュメンタリーは事実に基づくものです。
映像は、事実として世の中で起こっているものでなくてはなりませんし、ナレーションやテロップで打ち出す情報も正確な情報であることが必要です。
しかし、ドキュメンタリー型が、事実に基づくとはいえ、スポーツ中継型と異なるのは、撮影の段階から編集に至るまで、制作者の企画意図やテーマに従って事実の映像を再構築している点です。
企画意図やテーマは、作品によって様々です。
同じ人物や事象を取り上げながらも、切り口ひとつ違えば全く異なる作品になります。
例えば、同じ人物を描きながら、家族愛をテーマにした作品を作ることも、命をテーマにした作品を作ることも、仕事に対する情熱をテーマにする作品も作ることも可能なわけです。
ドキュメンタリーは、制作者が意図を持ち、より感動的な、あるいはより強いメッセージ性を持つ作品に仕上げるために、事実を素材にして作り込んでいきます。
その作業のプロセスや考え方、ノウハウには、ドラマ・アニメ型との共通点が多くみられます。

結婚式ビデオ型


事実に基づきながらも、制作者の企画意図やメッセージを打ち出すことを目的にした「ドキュメンタリー型」に比べて、「結婚式ビデオ型」は、「スポーツ中継型」により近い形です。
結婚式のビデオを制作する時の目的は、「結婚式の感動を伝え、記録に残す」ことでしょう。
すなわち、素材の持つ感動をなるべく忠実に伝えることが大切なわけです。
この点で、スポーツ中継型とよく似ています。
異なる点は、スポーツ中継のように一から十までを伝えることは難しいので、「編集」という作業が入ることです。
編集作業には、「どこをカットするか」「そのシーンを何秒使うか」など、必ず制作者の意図が入ります。
しかし、ドキュメンタリー型のように、素材を再構築して新たな企画意図やメッセージをそこに埋め込むような作業は、結婚式ビデオでは多くの場合行いませんね。
編集という作業をしながらも、なるべく素材の感動を忠実に伝えようとする点で、結婚式ビデオ型は、スポーツ中継型により近いパターンだと言えるでしょう。
私は個人的には、YouTubeなどに投稿されている、いわゆる「投稿動画」の多くは、この結婚式ビデオ型だと思います。

まとめ

いかがでしたか。
感動的な映像をどのように生み出すかは、映像制作に携わる人にとって大きな関心事だと思います。
同じ「感動的な映像・動画だった」と言っても、感動がどのように生まれたかは異なります。
素材がもともと持つ「感動的な要素」と、「感動的に作りたい」という制作者の意図とが、どのような化学反応を起こして「感動」が生まれるのか。
そのパターンを意識しておくと、感動的な映像を作るアプローチの仕方が見えてくるかもしれませんね。




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