冒頭小説「香山ちづる」
※これは冒頭のみの小説です。何かが始まるワクワク感で終わりるのは許してちょ。続きは気が向いたら書くかもしれないし書かないかもしれない…
「昨日、地図を拾ったの」
あー聞いちゃったよ…
耳に飛び込んできた言葉を受け流そうとしながら咄嗟に思ったのは、大冒険を連想させる興味の引きそうなこの地図というワードよりも、こいつのくだらない誘いをどうやって断るかという算段だった。
香山ちづる
小4の時に俺の小学校に転校してきてからずっと俺と同じ進路を辿ってるやつ。ただそれだけのやつ。かわいいとか元気があるとか、足が速いとかそういう特段印象に残るわけでもない、どちらかと言えば大人しめのやつだった。しかも俺はクラスがちがうから、特になんとも思ってなかった。
それなのに中学に入ってから度々話しかけられるようになった。
最初は他に知り合いのいない学校で不安から頼られてるのかな?なんて思春期突入の俺はちょっとだけ嬉しかったりもしたけど、正直なところこいつは別に俺の顔すら覚えてなかった。だって第一声は「はじめまして、そこの人」だったんだから。
だからこいつは本当にやばいやつかもしれない。
しかも毎回なにかを拾ったという報告と共に「一緒に来て」と真顔で誘ってくる。見ず知らず(こいつからすると)のやつに。マジで不思議だ。そして心から迷惑だ。
香山ちづるは毎度こっちのスケジュールとか気持ちとか完全に無視で、無理矢理手を引いて俺を連れて行く。それが正直1番きつい。好きな子ならちょっとキュンとしちゃう場面なはずなんだけどさ。
振り解けはいいじゃん?って?いやいや、相手女子だから。そもそもこいつはすごい握力で手を引いて行くし、それを力づくで振り解いたら多分怪我させてしまう。だって俺、相撲部だし。小学生の頃、地方大会で優勝しちゃったし。
結局振り解けないから付き合うことになってしまうのが毎回のシナリオ。
前回は「さっきね、うどん拾ったの」だった。その前は「朝、空き缶のプルタブ拾ったの」だった。
それだけでも謎なのに、香山ちづるは「何か事件かもしれないから一緒にきて」と放課後の俺を連れて行ってしまう。
そして毎回暗くなるまで仮説を立てて何かを探すように街を歩き回る。が、結局何にもない。何にも。ただ、誰かが落としたであろううどんや空き缶から取れてしまっただけのプルタブを拾った事実しか残らないのだ。
だから俺ももう嫌なんだ。正直こいつに付き合うのがめんどくさい。
「昨日、地図を拾ったの」
「今日は…」
俺いかねぇぞ!
といいかけた瞬間、
「事件かもしれないから一緒にきて!」
の声と共に首がガクンと持ってかれる程強く腕を引かれてしまった。
あーまたくだらない面倒い時間だ…
嫌な顔を隠しもせずに俺はそんなことを思っていた。この時までは。
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