これぞジャーナリズムだ!と言うつもりはない 映画『コレクティブ 国家の嘘』を観て
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これぞジャーナリズムだ!と言うつもりはない 映画『コレクティブ 国家の嘘』を観て

永池マツコ

偶然にも2021/10/2公開初日に観ることになった。マイペースな私にしては珍しい。最近、身の回りの色んな事がきっかけで医療に関心があって、今読んでる本にジャーナリズムがテーマのものがある。私の両方のアンテナにひっかかるタイムリーな作品なので、思い立ったが吉日、劇場に足を運んだ。

本作品を簡単に紹介するならこんな感じだ。
・ルーマニアの医療と政治とジャーナリズムへの密着
・淡々とすすんでいく手法が永池マツコ的魅力ポイント

あらすじ

ルーマニア、ブカレストのライブハウス「コレクティブ」で、ロックバンドのライブ中に火災が発生し、27名が死亡する。その後、怪我治療のため入院していた患者たちも次々と死亡し、最終的には64名の死者が発生。違和感を覚えた地元のスポーツ紙「ガゼタ・スポルトゥリロル」が事件を追い少しずつ驚愕の事実を明らかにしていく様子、本件の対策に取り組む政府保健省(おそらく日本の厚生労働省のような機関)の様子をカメラに収めたドキュメンタリー作品。

ルーマニアの医療と政治とジャーナリズムへの密着

本作品を見て一番驚くのは、スポーツ紙や保健省への密着度合い。「ここまで入り込んで大丈夫なのか?」というくらいに内部に踏み込んでいる。元病院職員が病院の汚職を新聞社にリークする様子、院内のずさんな管理体制をこっそり撮影した動画を持ち込む医師(うげ!本当に病院かと目を疑う衝撃動画)、保健省の大臣が記者会見の内容を職員たちと議論する様子、保健省に批判的な市長がテレビで批判的なコメントを熱弁する姿を見て苦笑する大臣の様子…。今まで我々が見てきた密着取材とは何だったのか?と思うほどに、ありのままに近い姿がカメラに収められている(勿論、関係者の意に沿わない所は多少カットしてあるだろうから、ありのままに「近い」としている。特に保健省に関しては、本問題と正面から向き合い、抜本的に改革を考える前向きな取り組み姿勢だったので取材が許可されたのだと思う。隠ぺい側だったら絶対に取材に応じていない)。登場人物の苦労が身近に感じられるとともに、映画製作陣がどのように取材交渉したのかかなり気になる。映画を通じて全世界に国の醜態をさらしても大丈夫なのだろうかと心配になる。正直、こんな医療体制が今も続いているだろうから、コロナ対策もずさんなのではないか?と疑念を持つし心配になってしまう。

淡々とすすんでいく

予告編に比べて、話の進み方は大変地味である。「腐った政治にメスを入れ、現代のジャーナリズムに物申す!」というような作品を期待している人がいたら、残念ながらその期待は裏切られるので考えを改めるよう先に忠告しておきたい。だが、地味な日常をありのままに映し出すことこそがリアリティに繋がると教えてくれた、いい作品だったと私は思う。要は「盛ってないな」「胡散臭くないな」と思える、地味だが率直で説得力のある作品なのだ。

視聴者に対して誰かが何かを語りかけたり、視覚的に分かりやすいグラフやデータがパッと並び衝撃的なファクトを突きつけるスライドが入ることはない。もちろん、良い声のナレーションが入ったり、葉加瀬太郎のバイオリンやスガシカオのギターの音色が流れたりもしない。

また、トム・ハンクスがジャケットをパッと引っかけて「さあ仕事だ!機密文書を手に入れろ!」とチームメンバーを鼓舞することもないし、メリル・ストリープが重厚なBGMをバックに戸惑い悩み逡巡した結果、ついにスクープ記事掲載のゴーサインを出す、なんて劇的なシーンもない。

そんなドラマティックな演出は日常生活には存在しない。議論の風景も記者会見も、取材も張り込みも地味で淡々としている。でも、中身はヤバい。超弩級な機密情報(隠ぺいされた情報というべきか)がゴロゴロと出てくる。この日常積み重ねが歴史の決定的な瞬間であり、その瞬間をそのままを映し出した映画が「コレクティブ 国家の嘘」なのだ。

いい映画なのかどうか

好き嫌いが分かれるだろう。視聴者が映画に求めるものが少しでもズレると、面白くないよくわからないという感想を持たれてしまうと思う。

私だって、「作り手が何を言いたかったのか?」は、正直よくわからない。「ジャーナリズムはかく在るべき」や「政治はこう在るべき」或いは「理想の医療とは」といった強い主張を視聴者に問うているかと言われれば、それは違う気がする。そこまでのメッセージ性はなく、ただルーマニアの医療と政治がどうしようもないという衝撃の事実が存在している、それだけだと思う。
しかし、「私たちに考えることを促す」作品であると思う。この作品を観て自分はどう行動するのか。情報過多社会の中で、自分はどう事実を見極めるのか。自分が今見ているものは、事実なのかどうか。

「良い質問とは、相手の頭の中で何度もぐるぐる繰り返される質問である」と、何かの書籍で読んだことがある。この作品は、その役割を担うものだと思う。何となく頭に引っかかっていて、何度もこの作品について考え、自分事に置き換える。そういう意味では、意味のある良い作品だったと、私は思う。

ご興味のある方は、ぜひご覧ください。

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ながいけまつこ

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永池マツコ
映画紹介ポッドキャスト「日々シネマチック」やってます。時折、コミュニティFMさんやポッドキャストにも出没。 日々のことを気の向くままに書いて行けたら。