#280 【創作SS】幸せの資格part2
「キミは自分に素直だね。そういうところ、羨ましいなあ」
二人で傘をさして帰る道すがら、カツヤくんはそう話しかけてきた。
「そうかな?カツヤくんは自分を正直に出せていないって思うの?」
「ボクはええカッコしてるだけで、全然ホントの自分を出せてないんだ」
「なんでそう思うの?」
「実は、ボク、ちょっと事情があって幼少期に施設に預けられてた時期があってね。もうずいぶん前の昭和の時代だから、オンボロの施設でねえ。いわば食べさせるだけ、みたいな感じ?一つ一つは覚えてないけど、なんか暗黒のイメージは今も残ってるんだ」
「そうなんだ。ツライ思いをしたんだね」
「そのせいもあってか、親元に帰ってもいじけたところがあって、幼稚園でも結構いじめられてたらしいんだ。後から聞いた話だけどね」
「そんなふうに全然見えないけどなあ」
「その後これじゃいけないと思うきっかけがあって、明るくなるようにずいぶん努力して今があるんだ。でも、やっぱり自分の奥の方にはトラウマとして残っていて、自分のマイナスの感情をちゃんと表現できないし、こんなボクにはしあわせなる資格なんかないんじゃないかって思うこともあるんだ」
「カツヤくんは今の自分に不十分さを感じていて、それは過去のことが原因になっていると思っているんだね。で、それがこの先にもずっと影を落とすんじゃないかって思っちゃうんだね」
「そうそう」
「なんかうまく行かない時って原因を求めたくなるよね。でも、過去のその経験が原因だっていうのは、ホントにそうなのかな?」
「どういうこと?」
カツヤくんはまっすぐにボクの目を見つめている。
「カツヤくんの幼少期の経験を、今、さらには未来にまでつなげて考えることがホントにいいのかしらってこと」
「じゃあ、ボクの今の問題点はあの経験とは関係ないってこと?」
「いや、関係あるかどうかという話じゃないんだ。ボクには、過去のことを理由づけにして、『自分を出せない自分』をキミが自ら選択しているように見えるよ。ましてやだからこの先もしあわせになる資格があるのかしら、なんて話になると、わざわざ不幸せな方向を自分で選ぼうとしているように聞こえるよ」
「そんなつもりはないんだけど。。。」
「『自分は自分を正直に出せない』って呪縛を自分で自分にかけてないかい?」
カツヤくんはハッとしたように立ち止まった。
「キミが辛い幼少期を過ごしたのは事実だろう。マイナスからの人生スタートだったと言いたくなるよね。でも、その後の頑張りでもうそのマイナスは十分取り返しているんじゃないか。にも関わらずいつまでもキミが一人でそのマイナスにこだわっている。ボクにはそう見えるよ」
カツヤくんは突然両手でボクの肩を掴んできた。
「そうか!ボクはもう取り返しているのか!ボクが勝手にまだマイナスがあると思い込んでいただけなのか!」
「取り返すどころか、お釣りが来てるんじゃないか?」
カツヤくんの目から涙が溢れた。
「原因探しをするより、自分が何を選択するか、なんだね!」
「そうだよ。その通り。」
「過去に原因を求めることは、今うまくいかないことを過去のせいにしているだけで、それは自分に言い訳しているのと同じってことか!せっかくしあわせの資格が眼の前にあるのに、自ら遠ざけてたんだ!
ありがとう。これでやっとボクもしあわせになれるよ。」
いつまでも滂沱と涙を流すカツヤくん。いつしか雨も上がり、空には虹がかかっていた。夕日に照らされるカツヤくんは神々しくさえ見えた。
今日も最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました♬ 長井 克之
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