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晴れの日も雨の日も#265 【創作SS】秘密

オレには人に言えない秘密がある。会社にも友達にももちろん家族にも。
これがバレたらどうなるかって?
オレのこの先の人生に相当の痛手を負うし、少なくともこれまで必死で築いてきたささやかな信用とか信頼とかというものがガラガラを崩れるのは間違いない。オレ的にはほとんど「身の破滅」だ。
だからオレはこれだけはなんとしても墓場の底まで持っていかなければいけないと決心してやってきたし、それを隠すために嘘もついたし誤魔化してもきた。


そんなオレに、こざっぱりとした身なりの初老の男が声をかけてきた。
「アナタ、何か秘密を抱えていますね。いや、顔を見ればわかります。そんなアナタにうってつけのいいものがありますよ」

誰だこいつは。なんでオレの秘密のことを知ってるんだ。
警戒心MAXのオレにその男は一冊のノートを差し出した。一見なんの変哲もない普通の大学ノートに近い。

事態がのみこめず、けげんな顔をしているオレに男はこう続けた。
「これは魔法のノートです。これに秘密を書いてビリビリに破るとその秘密のことそのものが消えてしまうんです」

オレは聞いた。
「ビリビリに破っても、誰かがそれをもう一度つなぎあわせたら読めるじゃないか。秘密がバレてしまうじゃないか。それより燃やすのはどうなんだ」
「燃やすとあなた自身が燃やされたような辛さを感じます」
「じゃあ破るのも身が引き裂かれるように辛いのではないのか」
「それはそうです。ある痛みは伴います。そんな辛い思いをしてでも秘密を始末してしまいたいか。あるいはずっと秘密を抱えて生きる重っ苦しい人生を選択するか。それはあなた次第です」


そう言うと、男はそのノートをオレの手に押し付け、くるりと背中を向けた。
ゆっくりと立ち去る男。ノートを手に一人立ち尽くすオレ。


数日の間散々迷った末に、オレはこのノートを使うことにした。
すっかり正直に全部を白状する思いで秘密を赤裸々にノートに書き、ビリビリに破った。さあこれでもう大丈夫だ。

そう思ったその瞬間。

そのビリビリの破片が空中に漂いあっという間に飛んでいってしまった。破片はその秘密を最も知られたくない人のところに飛んでいったのだ。

約束がちがうじゃないか。秘密にしていることそのものが消えてしまうというのはウソだったのか。オレは男をうらんだ。呪詛の声をあげた。

しかし、バレてしまったものはしょうがない。オレはその相手に謝り倒して心からの詫びを言って許しを請わなければならなかった。誠心誠意その相手と向き合うことで、また新たな関係構築を一から始めるしかなかった。

それはまだ道半ばだ。でもそのおかげでオレには秘密がなくなり、オレは肩から荷をおろしたように、ウソのように生きることが楽になった。これが本当の幸せなんだと思うようになった。


「だから言ったでしょ。ある種の痛みは伴いますが、秘密を抱え続ける苦しみからは開放されるって」
あの男の声が聞こえてきたような気がした。

秘密を抱えているそこのアナタ。アナタならどうしますか?

★あくまでも【創作SS】です。
 コーちゃんがどう、とかいろいろ詮索しないでね〜😂

青空に泳ぐ鯉のぼり。田園風景の匂い残る当地でもこんな立派なのは希少。

今日も最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました♬ 長井 克之

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<予定(但し、臨時差し替え頻発😂)>
#264 【創作SSタケおじシリーズvol.21】チョロキュー
#265 うそ
#266 【創作SSタケおじシリーズvol.22】パパ、キライ!

(続く)

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