晴れの日も雨の日も#286 【創作SS】3つのお願い
男は毎日朝から晩まで真っ黒になって働いていた。出口感なんかまったくない。ヨメさんも見つかりそうにない。そもそももうずいぶん長い間女性と口をきいた記憶すらない。一日の終りに神様に手を合わせること。それだけが男の唯一の救いだった。
ふとある日の礼拝の時。
「ところで神様、いつまでこんな暮らしを続けていくのでしょう」という言葉が男の口からこぼれた。すると眼の前にポッと小さな灯がともった。
その灯は次第に大きくなり、白いあごひげを胸まで垂らした神様が出てきた。
「おまえはよく頑張っている。それに信心深い。わしはずっと見てきたぞ。今日はおまえの願いを3つ叶えてやろう。何でも言うがいい」
「ホントですか!」
男の顔は驚愕と喜びで真っ赤になった。が、これまで「願い」なんて思ったこともなかったせいか、急にこう言われてもすぐには何も頭に思い浮かばない。むしろ、男はこの苦しい境遇に耐えるために、願いなど排除してきたのだ。
そんな男がまず思ったのは、今の暮らしのことだったというのは、当然だろう。
「神様、この暮らしを何とかしてもらえませんか」
「ふむ。『何とか』というのは具体的にどういうことじゃ?」
「私は毎日必死で働いていますが、食べることさえもままなりません。家は掘っ立て小屋。着るものは穴だらけのボロしかありません。衣食住の苦労がないようにしてください」
「わかった。では十分な衣食住を与えてやろう」
その瞬間、男は真新しいステキな服、立派な家、たくさんの食料に囲まれていた。
「これでどうかな」眼を丸くしている男に神様が尋ねた。
「ありがとうございます!夢のようです!」
「次は何かな」
「では、では、次はヨメさんをお願いしたいのですが。。」恥ずかしそうに男が言う。
「もちろんお安い御用じゃ」そう神様が答えた瞬間、眼の前に絶世の美女が現れ「私をあなたのオヨメさんにしてください」ときた。男は天にも昇る気持ちだった。
「お気に召したかな」
「もう気に入るもなにも!こんな美人が自分のヨメさんだなんて!」
「それは良かった。では最後の願いは何かな」
「うーーーん、こんなことは初めてなんで、ちょっと3つめはすぐには思い浮かびません。しばらく時間を頂けませんか」
「確かに、どれもこれも今までおまえが経験したことのないものばかりじゃ。その新しい暮らしを少しやってみないとわからん、というのも無理はない。よし、それでは1週間やろう。その間に考えるのじゃ」
そう言って神様はスーッと消えていった。
男の新しい暮らしが始まった。
モノは何一つ不自由がない。美人のヨメさんも自分に心から尽くしてくれる。
最初の3日ほどはもう夢のようで、あとの願いはこの暮らしを失わないことだけだ、と思った。
ところが、5日目を過ぎたあたりから、なんとなく気持ちが落ち着かなくなってきた。なぜそうなるのか男にもわからない。
明日は神様にまた会うという6日目、男は気付いた。
「そうか、オレは幸せを感じる心の働きが弱いんだ。これを明日お願いしよう」
約束の7日目がきた。
「神様、私の心を、幸せをしっかり感じ取れるようにしてください」
「ふむ。そのおまえが言う『幸せ』とは何かな?」
「それがわからないから困っているんです」
「それはおまえにしかわからないものじゃ。それがわからんことにはわしにはどうすることもできん。ではさらばじゃ」
そう言って神様は消えていった。
もちろんそれからも男の新しい生活はなくなりはしない。恵まれ、不満を言えば罰が当たりそうな暮らし。しかし、男の心は満たされない。なぜ満たされないのか、何があれば満たされるのか男にもわからない。
神様は、それは自分で探すしかない、とおっしゃった。男は苦しんだ。こんなことなら何も悩みや迷いがなかった前のほうがよかった。そんな思いも頭に浮かんだ。
そしてついに男はたった一人で「自分の幸せ探しの旅」に出ることを決意した。ヨメさんには書き置きを残し、男は旅立った。男は何かを見つけてまたここに帰ってくることがあるのだろうか。それまでヨメさんは待っていてくれるのだろうか。男の人生やいかに。。。
今日も最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました♬ 長井 克之
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(続く)
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